大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

2025-10-01から1ヶ月間の記事一覧

「紫は灰さすものぞ 海石榴市の 八十の街に 逢へる子や誰れ」〜君の名は。紫は恋のいろ

紫は灰さすものぞ 海石榴市の 八十(やそ)の街(ちまた)に 逢へる子や誰れ 現代訳 海石榴市(つばいち)の辻で出会ったあなた。お名前は、いったい何というのでしょう。 歌の意味 紫は灰さすものぞ 海石榴市の 八十の街に 逢へる子や誰れ 「紫は 灰さすも…

素盞鳴神社(慈恩寺)〜線路のほとりのスサノオ、朝倉の風と岩の祠

近鉄大阪線・大和朝倉駅の南口を出ると、線路に沿って細い道が東へ延びている。民家の合間を縫うように進むと、ほどなく「慈恩寺町」の小さな集落に入る。 そこに、山の端を背にしてひっそりと鎮座するのが、素盞鳴神社(すさのおじんじゃ)である。ここまで…

十二柱神社〜出雲の里に眠る、相撲と神代の記憶

桜井市出雲。初瀬川の流れが、山の端をかすめるように蛇行しながら、静かな村を包み込む。そのほとりに、初瀬街道の名残をとどめる一本道がある。 黒い板壁の家が並び、軒先には秋草が揺れている。出雲は、「八雲立つ出雲」の言葉通り、雲が次々とわき出る美…

泊瀬朝倉宮〜雄略天皇、谷風に響く王の声、交通と祭祀を制した都

奈良県桜井市黒崎の初瀬街道沿いに、泊瀬朝倉宮(はつせのあさくらのみや)の伝承地がある。白山比咩神社の前、国道165号線を挟んだところに案内板が立つ。初瀬谷口の集落景観の中で、古代宮都の痕跡を静かに伝えている。 『古事記』『日本書紀』は、第21代…

纒向日代宮〜3代目・ヤマト王権、景行天皇と太陽の都

奈良県桜井市穴師(あなし)の民家の一角に、纒向日代宮(まきむくのひしろのみや)跡の石碑がひっそりと建っている。細い道沿いに小さな祠と案内板が寄り添い、周囲には果樹園と畑が広がる。静かな農村の風景の中に、かつての王都の記憶が眠っている。 『日…

纒向珠城宮〜垂仁天皇の宮、相撲も埴輪も、ここから始まった

奈良県桜井市芝の田園地帯に、纒向珠城宮(まきむくのたまきのみや)跡を示す石碑が立っている。周囲はのどかな水田と小さな池に囲まれ、空が広く開けた静かな場所である。纒向珠城宮は第11代・垂仁(すいにん)天皇が都を営んだと伝わる地で、『日本書紀』…

泊瀬列城宮〜武烈天皇が築いたヤマト王権の最後の都

奈良県桜井市出雲の初瀬街道沿い、十二柱神社(じゅうにはしらじんじゃ)の境内に、泊瀬列城宮(はつせのなみきのみや)跡の碑が建っている。ここは、第25代・武烈天皇が宮を構えたと伝わる地である。 『古事記』や『日本書紀』には「泊瀬列城宮にまします」…

近鉄・大和朝倉〜桜井を過ぎて、大和に還る

大和朝倉駅(やまとあさくらえき)は、奈良県桜井市慈恩寺に位置する、近畿日本鉄道(近鉄)大阪線の駅である。 開業は1944年(昭和19年)11月3日。戦時下の緊張が続く中で誕生した駅であり、物資輸送や地域交通の要としての役割を担った。 戦後の復興と共に…

音羽山〜霧と祈りのはざまにある桜井の峯

奈良県桜井市の南東、粟原の里から見上げる山並みに、音羽山(おとわやま・標高851.7メートル)はある。大和と伊勢をつなぐ山稜の一角であり、「音羽三山」(音羽山・経ヶ塚山・熊ヶ岳)の主峰。古くから修験の道として歩かれ、山岳信仰と観音信仰が交差する…

磯城嶋金刺宮〜初瀬と粟原、二水のほとりの王都

磯城嶋金刺宮(しきしまのかなさしのみや)は、奈良県桜井市の初瀬川(はつせがわ)と粟原川(おおばらがわ)にはさまれた一帯に営まれたと伝わる宮である。 いまは「磯城嶋公園」として整備され、芝のひらきの中に石碑や歌碑、解説板が点在する。 初瀬川に…

柿本人麻呂「大和の国は 言霊のさきはふ国ぞ 」〜万葉集、言葉が生きる国の祈り

磯城島の 大和の国は 言霊の さきはふ国ぞ まさきくありこそ 現代訳 「しきしまの大和の国」は、言葉の霊(たま)の力が生き、幸いをもたらす国である。どうかこの国が、末永く安らかでありますように。 この歌の解釈は分かれ、「遣唐使 や旅立つ者の無事を…

桜井駅〜万葉と両親のエンジン、愛を乗せた終着駅

桜井駅(さくらいえき)は、奈良県桜井市の中心に位置する交通の要衝である。JR西日本の桜井線(万葉まほろば線)と、近鉄大阪線が接続し、JR・近鉄の両方を利用できる。 明治26年(1893年)にJR(当時の国鉄)が開業し、昭和4年(1929年)に近鉄の前身であ…

そうめん處「森正」〜時を食す庭、大神神社の参道にひそむ涼の楽園

古い町並み、格子戸の向こうからは、涼やかな気配が漂ってくる。「そうめん處 森正」。看板には「そうめん庭」とあり、古びた木の質感に時代の重みが刻まれている。この門は、近松門左衛門の『冥土の飛脚』にも登場する「三輪茶屋」の門である。「奈良麻のれ…

「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」〜正岡子規、古都に響く静かな命の音

柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 1895年(明治28年)、正岡子規が奈良で詠んだ歌は、日本で最も有名な近代俳句になった。 松尾芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」よりも、もっとシンプルに情景を描写しただけの俳句が、なぜ日本人の心に響くのだろうか? 柿と鐘の…

「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 露葉風60」〜赤き伝承、白き息吹、時を斬る酒

銘柄:三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 土地:奈良県桜井市三輪 酒蔵:三輪伝承蔵(今西酒造) 区分:特別純米酒 原料米:奈良県産露葉風100% 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米) アルコール:13度 精米歩合:60% 価格:2,750円(720ml) 「三諸杉 三輪伝承蔵…

西内酒造(奈良県桜井市)〜談山の麓で時を醸す酒蔵

桜井の町を抜け、談山神社の一の鳥居を過ぎると、古い木格子の建物が道沿いに現れる。1878年(明治10年)に創業した酒蔵「西内酒造」である。 西内酒造は、紅葉の名所として知られる談山神社の一の鳥居そば、多武峰(とうのみね)の麓に創業した。 この地は…

大神神社「秋の大神祭」〜風の中の神、声の中の人、神の山が眠る日、人が目覚める日

10月24日。三輪の里に、神が降りてくる。 奈良盆地を覆う朝霧がまだ残る時間、大神神社の境内にはすでに人の波があった。 大神神社「秋の大神祭」は、2000年の歴史を持つ。古代、大物主大神を祀ったときから続く最古の祭儀。この日だけは、御神体である三輪…

釈迦ヶ岳〜鬼の道を越え、仏の峰へ

釈迦ヶ岳は、奈良県十津川村と下北山村の境にそびえる標高1,800mの山で、大峰山脈の主峰の一つ。古来より修験道の霊場「大峰奥駈道(おおみねおくがけみち)」の中核をなし、山頂の釈迦如来像は修験者たちの信仰の対象である。 登ったのは2015年9月29日。ま…

「談山 上撰」〜飾らず、誇る、西内酒造の矜持、日常にひと筋の上質を

銘柄:談山 土地:奈良県桜井市下 酒蔵:西内酒造 区分:本醸造 原料米:奈良県産米(掛米)、キヌヒカリ(麹米) 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)、醸造アルコール アルコール:15度 精米歩合:奈良県産米70%、キヌヒカリ60% 価格:550円(300ml)…

曽爾高原ビール〜名水が泡立つ村、山の記憶を瓶に閉じ込めて

曽爾高原ビール(そにこうげんビール)は、1999年に奈良県曽爾村で誕生したクラフトビールである。奈良県で最古参のクラフトビール醸造所。ここから奈良の地ビールの歴史は始まった。 標高約700メートルの人里離れた山深い高原地帯、「日本で最も美しい村」…

金剛山〜ソフトクリームと霊気のあいだで、役小角、法を修した山

登ったのは、令和元年7月13日だった。梅雨の名残を抱いた湿り気のある空気が、奈良県御所市の高天の里を包んでいた。 ここは古くから神々のふるさとと呼ばれ、修験道の開祖・役小角(えんのおづぬ)が修行した地でもある。登山口に立ったとき、ふるさとの偉…

曽爾高原ビール BYOBUケルシュ〜曽爾の風を映す、黄金の屏風

品名:びょうぶケルシュ(酵母入り生ビール) 種類:ケルシュ 醸造所名:曽爾高原ビール アルコール:5.0 % 原材料:麦芽、ホップ 価格:660円(税込) 「曽爾高原ビール BYOBUケルシュ」は、1999年に誕生した奈良県で最も古いクラフトビール醸造所である「…

曽爾高原ビール YOROIアルト:赤銅の詩、鎧を脱いだあとに残る、風の味

品名:よろいアルト(酵母入り生ビール) 種類:アルト 醸造所名:曽爾高原ビール アルコール:5.0 % 原材料:麦芽、ホップ 価格:660円(税込) 「曽爾高原ビール YOROIアルト」は、1999年に誕生した奈良県で最も古いクラフトビール醸造所である「曽爾高原…

曽爾・鎧岳〜武士の立ち姿、静けさの中の威厳

奈良の山には、時代の記憶が眠っている。令和元年の6月20日、桜井の実家を出て、南へとハンドルを切った。梅雨の切れ間のような晴れの日で、空には少しばかり夏の気配が漂っていた。 目的地は、曽爾村にそびえる「鎧岳(よろいだけ)」標高894メートル。名の…

八阪神社(桜井市高田)〜古墳の森に立つ静寂の荒魂

奈良県桜井市には、八阪神社が5社を超えて点在している。表記も「坂」と「阪」に分かれ、由緒もさまざまだ。大神神社の末社であるもの、集落の鎮守として小高い丘に祀られるもの。どれも似て非なる、独自の風土を映している。 その中で、桜井市高田(たかた…

片上醤油「天然醸造こいくち醤油」〜奈良の大地が滴となる、雪解け水のように澄む味わい

名称:こいくちしょうゆ(本醸造) 原材料名:大豆(奈良県産)、小麦、食塩 内容量:100ml 保存方法:直射日光を避け 常温で保存 製造者:片上醤油 片上裕之 奈良・御所の山裾に佇む片上醤油。その小さな蔵には、時を重ねた木桶と、土地に棲みついた微生物…

額井岳〜万葉の歌が眠る大和富士

朝の霧が、宇陀の谷をゆっくりと押し流していた。桜井の町を出て車を走らせると、遠くに円錐の山が見えた。山肌をなぞるように、針葉樹の緑が深く沈み、ところどころ紅葉が滲む。その姿を、地元の人は「大和富士」と呼ぶという。額井岳(ぬかいだけ)。標高8…

曽爾高原ビール KOHGENピルスナー:草原の風を飲む奈良の地ビール

品名:こうげんピルスナー(酵母入り生ビール) 種類:ピルスナー 醸造所名:曽爾高原ビール アルコール:5.0 % 原材料:麦芽、ホップ 価格:660円(税込) 「曽爾高原ビール KOHGENピルスナー」は、1999年に誕生した奈良県で最も古いクラフトビール醸造所で…

桜井市上之宮・春日神社〜聖徳太子の風が吹く場所

桜井の上之宮に入ると、風が一段深くなる。等彌神社、安倍文殊院、聖林寺。濃い“気”を放つ古刹に囲まれた一角で、集落の鎮守がひっそり息をひそめている。名は春日神社。全国に三千を超える“春日”のうち、桜井だけでも5社はある。その一社が、上之宮遺跡のそ…

倶留尊山〜曽爾高原のススキの海を越えて、風の頂へ 

実家のある桜井市から東へ車を走らせる。大和と伊賀の境、曽爾村のあたりに差しかかると、目の前に立ちはだかるのが、鎧岳。切り立った山肌が戦士の甲冑のようで、いつ見ても、息を呑む。この山を右に見ながら、峠道を登っていくと、やがて空が広がり、風の…