大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

2026-01-01から1年間の記事一覧

「明日香川 明日も渡らむ 石橋の 遠き心は 思ほえむかも」〜万葉集にかかる、見えない恋の橋

明日香川 明日も渡らむ 石橋の 遠き心は 思ほえむかも この歌は、明日香川を明日も渡って恋人に会いに行こうとする、強い思いを詠んだ一首である。「明日香川」の「あす」と「明日も」の「あす」を響かせながら、飛び石のように距離があっても、心まで遠く離…

天平庵「明日香川」〜春の川面を閉じ込め、時をほどく甘露の舟

名称:明日香川(あすかがわ) 原材料:砂糖、小豆、寒天、トレハロース、ゲル化剤(増粘多糖類) 販売期間:通年 販売元:天平庵 価格:120円 「明日香川(あすかがわ)」は、奈良県桜井市にある和菓子店・天平庵(てんぴょうあん)が手がける、上品なきん…

桜井市で逢いたい名仏たち〜大和は国のまほろば、仏像は心のまほろば

ヤマトタケルが「大和は国のまほろば」と称えた奈良県桜井市。 三輪山を御神体とする大神神社が鎮まり、崇神天皇の記憶が残り、箸墓古墳には祭祀とともに邪馬台国と卑弥呼の名が重ねられる。 桜井は、神話と古代史が地表にあらわれている町。どうしても、神…

金屋の石仏〜風が吹く、桜が咲く、時鳥が歌う

奈良県桜井市金屋の歴史を伝えるひとつが「金屋の石仏(かなやのせきぶつ)」である。 山辺の道の途上にあり、春は桜の巨木に美しい花が咲く。石仏のもつ静かさが際立ち、仏教伝来の地・金屋の歴史を伝える。 金屋の石仏の歴史 「金屋の石仏」とは、元々はミ…

安倍文殊院「渡海文殊菩薩群像」〜智慧は、海を渡ってやってくる

画像引用:安倍文殊院 仏像は、静かに座り、人々が訪れるのを待っているものが多い。しかし、安倍文殊院の「渡海文殊菩薩群像(とかいもんじゅぼさつぐんぞう)」は違う。巨大な獅子に乗った文殊菩薩が、四人の脇侍を従え、雲海を渡ってこちらへ向かってくる…

外山不動院「木造不動明王坐像」〜怒っているのに美しい、優しさが最後に取る形

奈良県桜井市外山(とび)の小さな堂の奥に、平安時代後期の不動明王が今も坐している。 外山不動院の「木造不動明王坐像」は、平安時代後期の作とされる不動明王像である。構造は寄木造り(複数の木材を寄せ合わせる技法)。像高は85cm。大きな仏像ではない…

今西酒造「みむろ杉(三諸杉)」の日本酒スパークリング〜三輪の水が泡になる、祈りと祝祭

万治三年(1660年)創業。酒の神が鎮まる三輪山の麓で、今西酒造は、三輪の水と米を磨き続けてきた。 「みむろ杉」「三諸杉」と聞けば、清らかでフルーティーな酒を思い浮かべる人が多い。だが、今西酒造の魅力は静かな透明感だけではない。 泡が、美しい。 …

聖林寺「十一面観音立像」〜大地に近い慈悲、東洋のヴィーナス、日本美仏の頂点

画像:聖林寺 奈良といえば、東大寺の大仏を思い浮かべる人が多い。あの巨大な盧舎那仏を抜きにして、奈良の仏教文化は語れない。しかし、日本彫刻の最高傑作は、奈良公園の中心ではなく、桜井市の南部にある。 その像が、聖林寺の国宝「十一面観音立像(じ…

なら国際映画祭2026〜故郷の奈良で、世界の物語が交差する

「故郷の奈良に、世界の人々が集い、交流する国際映画祭を」 その願いから生まれた「なら国際映画祭」が、2026年9月19日から23日までの5日間、奈良市内で開催される。 古い寺院の甍、石畳を渡る風、夕暮れの山並み。長い時間を静かに受け継いできた奈良に、…

あすか夢の楽市〜飛鳥の日常を買いに行く場所

奈良県高市郡明日香村。飛鳥という地名には、大きな響きがある。都があり、宮があり、蘇我氏がいて、天皇がいて、国のかたちが少しずつ整えられていった。日本史の教科書に載る名が、田んぼや丘や細い道の向こうに、今も平然と残っている。 その明日香村に、…

「みむろ杉 sparkling 雷来(lai lai)」〜三輪の空に弾ける、泡の柿本人麻呂

銘柄:みむろ杉 土地:奈良県桜井市三輪 酒蔵:今西酒造 区分:非公開 原料米:山田錦100% 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米) アルコール:12度 精米歩合:非公開 「みむろ杉 sparkling 雷来(lai lai)」は、奈良県桜井市・今西酒造が醸す「みむろ杉…

河瀨直美『七夜待』〜言葉を失い、川にほどかれ、身体は命の流れを思い出す

『七夜待』(ななよまち)は、2008年公開の日本映画。日本人女性の彩子が、タイ王国のある村で七夜を過ごし、古式マッサージや現地の人々との触れ合いを通して、固く閉じていた心と身体を少しずつほどいていく物語である。 タイトルの「七夜待」とは、神仏に…

河瀨直美『萌の朱雀』〜若葉は揺れ、赤い夏は去り、村は光へ歩く

『萌の朱雀』(もえ の すざく)は、1997年公開の日本映画。監督・脚本は河瀨直美。過疎化が進む奈良県吉野地方の架空の村を舞台に、消えゆく村と、そこに生きる人々の心の揺れを静かに見つめた作品である。 本作は、1990年代前半にWOWOWで放送された、気鋭…

飛鳥大仏(銅造釈迦如来坐像)〜日本仏教の夜明け、始まりはいつも沈黙している

日本の寺には、それぞれ寺宝がある。それは仏教の教えを伝えるものであり、同時に、造形物としての美しさを備えた芸術でもある。だが、仏像の中には、ひとつの像がその寺全体を背負っているように見えるものがある。 飛鳥寺の本尊、通称「飛鳥大仏」。正式に…

蘇我入鹿の首塚〜飛鳥寺の西に立つ、権力と鎮魂の五輪塔

甘樫丘が見える。明日香村らしいのどかな田園風景が広がっている。田んぼがあり、山があり、空がある。あまりにも穏やかな風景の中に、少し不気味な名前の史跡が立っている。 蘇我入鹿首塚(そがのいるかくびづか) 名前だけを聞くと、『八つ墓村』のような…

飛鳥寺跡(鳥形山 安居院)〜日本の仏教が、ここから歩きはじめた

奈良県高市郡(たかいちぐん)明日香村飛鳥。 地名からして、ここは飛鳥の中心である。寺の前にはのどかな田園風景が広がり、少し離れれば山の稜線がゆるやかに続く。 河瀨直美さんが「飛鳥は日本人全員のふるさと」と語るのも、ここに立つとよくわかる。歴…

邪馬台国〜卑弥呼の時代へ、地図のない国のロマン

日本史における最大級のミステリーが「邪馬台国」である。「奈良か、九州か」という所在地論争が白熱しているが、この果てなき推理合戦は、我々を古代の旅へと誘う。 しかし、邪馬台国の面白さは、それだけでは終わらない。歴史の本質は、人々がどんな暮らし…

箸墓古墳〜卑弥呼の眠る丘、雅と鄙のはざまに立つ大和の風

奈良県桜井市。石を投げれば古墳に当たる町だが、その中でも箸墓(はしはか)古墳の放つ気配は別格だ。 箸墓古墳は、前方後円墳。全長280メートル、後円部の高さは30メートルほど。これだけの規模の古墳を造るには、130万人ほどの労力が必要と考えられている…

流し三輪そうめん〜夏のファンタジア、竹色の川を白い糸が走る

子どもの頃、夏になると、日本最古の神社であり、日本の麺が生まれた大神(おおみわ)神社の参道で、流しそうめんが行われた。 昭和の終わりから平成のはじまりにかけてのこと。場所は、今西酒造の三輪伝承蔵が建っている辺りだった。 三輪素麺組合が、その…

「吉備醤油醸造元」〜三輪そうめんの麺つゆは、ここから始まる

国道165号線の「吉備」の交差点を、南へ入る。 車の流れは多い。橿原へ向かう車、桜井へ戻る車、信号待ちのトラック。けれど、交差点をひとつ折れるだけで、音が少し遠くなる。 道は急に細くなる。住宅が低く並び、白い壁と板塀のある建物が見えてくる。大き…

戎はるさめ〜桜井の風が育て、奈良の空と水が干し上げる、奇跡の白い麺

「奈良にうまいものなし」という言葉がある。 13年間、奈良で暮らした志賀直哉の言葉を、後にメディアがアレンジした名キャッチコピーである。 いったん自虐しておく。そのうえで、奈良の名産を食べた人が「いや、めっちゃ、うまいやん」と驚く。その落差ま…

「鳴る神の 音のみ聞きし 巻向の 檜原の山を 今日見つるかも」〜遠雷の名所、初めての実景、万葉の到達感

鳴る神の 音のみ聞きし 巻向の 檜原の山を 今日見つるかも 現代訳 雷のように「音(おと)」ばかり聞いていた巻向(まきむく)の檜原の山を、今日はついに自分の目で見ることができたのだなあ。 歌の意味 この歌は、巻向の「檜原の山」を、噂や遠雷のように“…

おふさ観音と風鈴まつり〜飛鳥の風が鳴る、1300年の涼を聴きながら

梅雨が明け、雨音が止むと、鈴の音色が風に揺れる。 橿原市小房町にある「おふさ観音」では、夏になると境内いっぱいに風鈴が吊るされる。青空の下、透明なガラスの風鈴が光を受け、短冊が風にそよぎ、涼やかな音が幾重にも重なる。音は軽く、遠い時間の奥か…

藤原京〜風が設計した都、大和三山に抱かれた国づくりの祈り

藤原京は、飛鳥の終章と奈良の序章をつなぐ、最初の本格的な都市。奈良県橿原市と明日香村にかかる場所にあり、南北の「条」と東西の「坊」という道路で区画された、碁盤構造を持つ条坊(じょうぼう)都市である。 それまでの都は、いま想像する「都市」とは…

今西酒造「みむろ杉(三諸杉)」の辛口酒〜露葉風が研ぎ澄ます三傑、三輪の水が磨いた、透明な旨味

万治三年(1660年)創業。酒の神が鎮まる三輪山の麓で、今西酒造は三輪の水と米を磨き続けてきた。 「みむろ杉」「三諸杉」と聞けば、思い浮かぶのは、爽やかでフルーティーな透明感かもしれない。だが、今西酒造の真価はそれだけではない。 辛口が、恐ろし…

華厳宗元興寺(塔跡)〜ならまちに残る、日本仏教はじまりの大塔跡

奈良市芝新屋町、ならまちの一角に、華厳宗(けごんしゅう)元興寺(がんごうじ)塔跡がある。 門前には「史跡 元興寺塔跡」の石碑が立ち、瓦屋根の山門をくぐると、そこには草木に包まれた静かな空間が広がっている。観光地というより、町の奥にひっそり残…

ならまち御霊神社〜怨霊を鎮め、町を守ってきた南都の御霊社

奈良市薬師堂町、ならまちの静かな通りに、御霊神社(ごりょうじんじゃ)が鎮座している。元興寺(がんごうじ)五重塔跡の南西にあり、西紀寺町(にしきでらちょう)の崇道天皇社(すどうてんのうしゃ)とともに、南都二大御霊社(なんとにだいごりょうしゃ…

「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 辛口 山田錦」〜静かに切れて、深く慈しむ、観音のような辛口

銘柄:三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 土地:奈良県桜井市三輪 酒蔵:三輪伝承蔵(今西酒造) 区分:非公開 原料米:奈良県産山田錦100% 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米) アルコール:13度(原酒) 精米歩合:非公開 価格:2,970円(720ml) 「三諸杉 三輪…

天平庵「きんぎょすくい」〜口の中で消える、小さな夏祭り

名称:きんぎょすくい 原材料:和三盆糖(香川県製造)、澱粉/着色料(赤3,赤102、赤106、青1,黄4) 販売期間:夏季 賞味期限:約1年 販売元:天平庵 価格:430円 「きんぎょすくい」は、奈良県桜井市の天平庵が夏季に販売する、和三盆糖を使った落雁であ…

茅原大墓古墳〜最古級の盾持人埴輪、古墳を守りつづけた“ガードマン”

茅原大墓古墳(ちはらおおはかこふん)は、奈良県桜井市にある帆立貝式(ほたてがいしき)前方後円墳。古墳時代中期初頭の4世紀末頃に築造され、日本最古級の盾持人(たてもちびと)埴輪が出土したことで知られる古墳である。 奈良県桜井市。ふるさとには、…