大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

2026-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「御休憩所ふくや」〜談山神社の癒しは、境内の手前にある

談山神社へ行くとき、いつも車を「御休憩所ふくや」に停めさせてもらう。 神社の参拝は、石段を上がって境内に入ってから始まるものだと思われがちだ。けれど、ここでは少し違う。車を降り、山の空気を吸い、店先の提灯と古びた看板を見る。その時点で、もう…

河瀨直美『沙羅双樹』〜散った花のあとに、命はまた声をあげる

『沙羅双樹』(しゃらそうじゅ)は、2003年7月12日公開の日本映画。監督・脚本は河瀨直美。河瀨さんの故郷である奈良を舞台に、大切な人の失踪という深い喪失を抱えた家族の物語である。 舞台は奈良の旧市街地、ならまち。古い家並み、細い路地、墨づくりの…

片上醤油「涼風そうめんつゆ」〜料亭の椀物のように、濃さではなく、澄み方で勝つ

名称:つゆ(希釈用) 原材料名:うすくちしょうゆ(本醸造)、本みりん、風味原料(鰹節エキス、昆布エキス、椎茸エキス)、砂糖、調味料(アミノ酸等)、発酵調味料(原材料の一部に小麦、大豆、サバを含む)、甘味料(甘草) 内容量:300ml 保存方法:直…

山部赤人「あしひきの山谷越えて野づかさに今は鳴くらむうぐひすの声」〜春は、山を越えて鳴きはじめる

あしひきの 山谷(やまたに)越えて 野づかさに 今は鳴くらむ うぐひすの声 この歌は、春の鶯の声を詠んだ山部赤人の一首である。山や谷にいた鶯が、春の深まりとともに野の小高い場所へ出て、今ごろ鳴いているだろうと想像する。実際に目の前で聞いた声とい…

額田女王「三輪山を しかも隠すか 雲だにも こころあらなむ 隠さふべしや」〜別れの空に立つ祈りの山

雲に隠れる三輪山 三輪山を しかも隠すか 雲だにも こころあらなむ 隠さふべしや この歌は、額田女王(ぬかたののおおきみ)が、大和を離れ、近江の都に向かう際に詠んだ『万葉集』の一首である。 現代訳 桜井市の芝運動公園の前にある万葉歌碑 「三輪山を、…

談山神社「観音講祭」〜神社で響く読経、神と仏がひとつの息をする日

雨に煙る談山神社は、いつもより少し遠くにあるように見えた。十三重塔は深い緑の奥で輪郭を滲ませ、晴れの日ならよく通るはずの朱も、今日は水気を含んでひっそりと沈んでいる。 どこか寂しそうだ。けれど、その寂しさは悪くない。日曜日でありながら、境内…

「今西 純米酒 備前雄町」〜三輪の奥に眠る、赤いラベルの清流

銘柄:今西 土地:奈良県桜井市三輪 酒蔵:今西酒造 区分:純米吟醸酒 原料米:備前雄町 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米) アルコール:14度 精米歩合:65% 「今西 純米酒 備前雄町」は、奈良県桜井市三輪の今西酒造が醸す清酒。 今西酒造といえば、…

今西酒造〜三輪の祈りを醸す酒蔵、神が生きる三諸杉

奈良県桜井市、三輪の町。日本最古の神社とされる大神神社の門前町に、静かに時を重ねる酒蔵がある。蔵元の名は、今西酒造。創業は万治三年(1660年)、400年近くの歴史を持ち、現在は十四代目・今西将之が蔵を率いている。 かつて三輪小学校から大阪・上本…

「竹流麺 スライダーそうめん流し器」〜食卓に小さな渓流をつくる、三輪そうめんの食育

会社:パール金属 出力:単1形乾電池2本 重さ:1.73kg 高さ:幅182.5cm ×奥行26.5cm×高さ57.5cm(最長) 価格:3,809円(楽天市場) 青竹を割り、水を流し、家族や友人が箸を構えて白い麺を待つ。 流しそうめんは、後世に残したい日本の夏の文化である。取れ…

天理スタミナラーメン〜奈良の胃袋インフラは、白菜と豆板醤でできている

奈良は、その静けさを破って、はっきりと「食欲」という言葉に姿を与える匂いがある。それが、天理スタミナラーメンだ。 始まりは1978年、天理郵便局前の屋台だった。夜の路上に灯りがともり、人が集まり、言葉が交わされ、腹が満たされる。1981年には桜井三…

「槙尾山 西明寺」〜指月橋を渡ると、古都は深くなる

奈良を知るために、京都を歩く。 奈良と京都は、向かい合って育った二つの古都ではなく、長いあいだ同じ時間の流れを分け合ってきた場所。文化も信仰も美意識も、奈良で生まれたものが京都で洗われ、京都で研ぎ澄まされたものがまた奈良へ戻っていく。その行…

野中川原史満「本毎に 花は咲けども 何とかも 愛し妹が また咲き出来ぬ」

本毎(もとごと)に 花は咲けども 何とかも 愛(うつく)し妹(いも)が また咲き出(いで)来(こ)ぬ この歌は、草木には毎年のように花が咲くのに、亡くなった愛しい人は二度と姿を現してくれない、という深い悲しみを詠んだ一首である。 花は咲く。季節…

「お米Café ごはんとおとも」〜米が踊る朝と昼、桜井の日常に、ちいさな贅沢を

ごはんの湯気は、嘘をつかない。 「さくらいとれとれ市場」の前に立つと、空が広い。青空の下に、どこかのんびりした色合いの看板が並び、その一角に「お米Café ごはんとおとも」がある。 肩ひじを張った店ではない。けれど、通り過ぎるには少し惜しい気配が…

野中川原史満「山川に 鴛鴦二つゐて 偶ひよく たくへる妹を 誰か率にけむ 」

山川(やまがわ)に 鴛鴦(おし)二(ふた)ついて 偶(たぐ)ひよく 偶(たぐ)へる妹(いも)を 誰(たれ)か率(い)にけむ この歌は、山川に寄り添う2羽のおしどりを、仲睦まじい夫婦の姿に重ねた一首である。おしどりは、古くから夫婦仲のよさを象徴す…

「栂尾山 高山寺」〜初夏の古都は、山から深くなる

奈良を深く知るために、京都を訪ねる。 「いざいざ奈良」と「そうだ 京都、行こう」は、ひとつづきの旅。都が分かれる前から、文化も信仰も美意識も、奈良と京都は響き合いながら育ってきた。奈良に根を張ったものが京都で花開き、京都で洗練されたものがま…

談山神社「鏡王女祭」〜紫陽花回廊の先で、縁は静かに祀られる

談山神社の参道に紫陽花が咲くころ、多武峰の空気は少しやわらかなくなる。 神社へ向かう県道37号桜井吉野線。その先、駐車場から神社へ続く参道には、色とりどりの紫陽花が咲き乱れる。 2026年は10年ぶりに「あじさい回廊」が復活し、境内の階段には60種類4…

率川神社と三枝祭〜奈良市最古の祈り、1300年続く「ゆりまつり」

JR奈良駅からほど近い率川神社(いさがわじんじゃ)は、奈良市で最古の神社である。 創建は593年。三輪山周辺、現在の奈良県桜井市を拠点とした飛鳥時代の豪族・大三輪君白堤(おおみわのきみしらつつみ)が、即位した直後の推古天皇の勅命によって創建した…

「春鹿 純米吟醸 吟麗」〜晩餐会の杯に咲く、国を結んだ乾杯酒

銘柄:春鹿 土地:奈良県奈良市福智院町 酒蔵:今西清兵衛商店 区分:純米吟醸酒 原料米:五百万石、山田錦 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米) アルコール:15.5度 精米歩合:60% 「春鹿 純米吟醸 吟麗」は、奈良県奈良市にある老舗蔵元「今西清兵衛商…

てのべたかだや〜三輪そうめんの新境地、美術館のようなカフェ

奈良県桜井市三輪。そうめんの聖地に、「てのべたかだや」鮮やかに新しい風を通している。運営するのは、創業130年を超える老舗「マル勝髙田商店」。父が存命のころ、実家の三輪そうめんを卸していたお得意様でもあった。 かつて卵を入れた黄色い「色付き素…

「麺屋 侍道場」〜甲冑と日本刀の奥にあった、奈良の夜に残る一杯

三条通りは、夜が早い。昼間は観光客の足音で明るく膨らんでいる通りも、夕方を過ぎると、店がひとつ、またひとつと暖簾をしまっていく。その中で、夜22時まで灯りをつけているラーメン店がある。 「麺屋 侍道場」 2023年12月11日にオープンした、まぜそばを…

「天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」〜31音で宇宙を描いた、万葉集の夜空の物語

天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ この歌は、夜空を大海原に見立て、雲を波に、月を舟に、星々を林にたとえた一首である。わずか31音の中に、天上の海を月の舟が進んでいくような、壮大で幻想的な世界が描かれている。 現代訳 天上の海には…

天平庵「月の舟」〜万葉の夜空を漕ぐ、小さなタルト

名称:月の舟(つきのふね) 原材料:小麦粉(国内製造)、アーモンド、砂糖、バター、カカオ、かぼちゃの種、卵、ひまわりの種、ぶどう糖、植物油脂、バターオイル、蜂蜜、還元水飴、乳糖、乳たんぱく、塩、モルト、クリーム、脱脂粉乳/トレハロース、乳化剤…

神楽「うま酒みわの舞」〜神が醸した酒を舞う、大神神社と三輪山の祈り

奈良県桜井市にある大神神社には、三輪という土地でなければ生まれなかった神楽がある。「うま酒みわの舞」である。 白と淡い桃色の装束をまとった4人の舞姫が、御神酒を神前に供え、三輪の神杉の枝を手にして舞う。神酒を捧げ、神をたたえ、酒造りの安全を…

「はね縵今する妹をうら若みいざ率川の音のさやけさ」〜初々しさは、水の音になる、初恋の音がする万葉歌

はね縵(かづら) 今する妹(いも)を うら若み いざ率川(いさがわ)の 音のさやけさ この一首は、若い娘の初々しさと、率川の澄んだ水音を重ねた、万葉集らしい清新な歌である。 現代訳 葉根蘰(はねかづら)を新たに身につけた若い娘が、なんとも初々しい…

浪花麺乃庄 鶴丸饂飩本舗 桜井上之庄店〜讃岐でも丸亀でもない、関西のうどん

25年前、近所に老夫婦が営むうどん屋があった。素朴だが、心に残る一杯を食わせてくれる店だった。しかし、数年のうちに暖簾は下ろされてしまった。 いま奈良でうどんを求めるなら、五條に「山直」という絶品の店がある。けれど車で一時間以上かかる。桜井で…

ササユリ〜神話と祭りと酒をつなぐ花、奈良の御神花を訪ねて

ササユリ(笹百合)は、本州中部以西から九州にかけて自生する日本特産のユリ科の花である。細長い葉が笹に似ていることから「笹百合」と名付けられた。 関西では親しまれている花だが、関東では自生しないため、存在を知らない人も少なくない。ササユリは、…

千寿亭〜三輪そうめんを「愉しむ」へ、家庭の麺を、旅の記憶に変える店

20年前、極真空手の全国大会を目指しながら、桜井市芝のミニストップでアルバイトをしていた。場所柄、観光客からしょっちゅう訊かれた。 「三輪そうめんを食べられる店はありますか?」 そう訊かれるたび、すぐ隣にある「千寿亭(せんじゅてい)」を案内し…

三輪そうめん美味しい麺処〜最古にして最新、桜井の四季で味わう名店案内

奈良県桜井市は、三輪そうめん発祥の地である。これは日本最古の麺類にあたる。 1877年(明治10年)創業、三輪そうめんの製造を営んでいた家に生まれ育ったYAMATOから言わせてもらえば、三輪そうめんは夏だけの食べ物ではない。冷やして啜れば、白い細糸が喉…

「春日庵」〜ならまちで出逢う“聖域の甘さ”、キング・オブ・和菓子「さつま焼き」

ならまちには、日本一おいしいカレー屋さん「菩薩咖喱」がある。そして、ならまちには日本一おいしい和菓子屋さんがある。 1897年(明治30年)創業の「春日庵(かすがあん)」である。 三輪駅からJR桜井線、万葉まほろば線に乗り、JR奈良駅へ。ならまち大通…

三輪駅〜万葉まほろば線が運ぶ、ふるさとの時間

万葉まほろば線で奈良から桜井へ戻る途中、「次はみわ、三輪駅です」というアナウンスが流れる。京終、天理、巻向。どれも良い名だが、「みわ」だけは響きが違う。悠久の歴史と神話の薫りをまとっている。 奈良は車社会。県内の移動で電車を使うことは滅多に…