大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

秋の奈良 御所縦断ウォークラリー 2025〜小さな足跡が育てる、大和の未来

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御所は、僕にとって特別な町だ。ふるさと桜井に次いで、思い入れが深い。大学を卒業したあと、社会という荒波に投げ出され、新庄にあるカー用品店で働いた3年間。過労死するかと思うほどの日々は、汗と叱責で魂を削りながらも、社会人としての礎を刻んでくれた。御所は、僕の「基礎工事」をしてくれた町だった。

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2025年9月21日、弟に誘われて「秋の奈良 御所縦断ウォークラリー 2025」に参加した。イベントの形式はゲームに似ている。時間内に多くのスポットを巡り、写真を撮ってポイントを集める。御所駅から始まり、古い町並みが続く「御所まち」エリア、大和葛城山の麓の葛城の道(葛城古道)エリア、五條市に近い金剛山の麓「神話エリア」へ。

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地図に描かれたルート以上に、このイベントの意義は、歩きながら町の奥行きに触れることにある。

思えば、僕が知っていた御所は、職場と自宅を結ぶ国道24号線沿いの風景だけだった。車の窓越しに流れていく光景は、どこか匿名で、顔を持たなかった。

秋の奈良 御所縦断ウォークラリー 2025〜歩くことで、町の声を聴く

実際に歩いてみると、御所は、輪郭をくっきりと、ひとつひとつ表情を見せてくる。これほど情緒が深い町だとは思わなかった。

150年以上の歴史をもつ砂糖問屋の「前喜商店」は、普段は10時の開店だが、8時半過ぎに店を開けてくれた。

昔ながらの銅板の型で作る「べっこう飴」は、これから始まる旅路のエネルギーチャージ。

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東川酒店の女将さん・東川宣子さんの「うちに置いてあるのは、どれも御所のものばかりです」と語る口調からは、地元愛と誇りが滲み出ていた。

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「梅本とうふ店」では、女将さんたちが、店の奥から笑顔で迎えてくれた。サービスで提供してくれた豆腐ドーナツは、揚げたての香ばしい匂いとともに疲れを癒す。歩き回って疲れた参加者に、心を込めて差し出された「ようこそ」の味だった。

秋の奈良 御所縦断ウォークラリー 2025〜歩くことで、町の声を聴く

「葛城酒造」では、ご主人が長い時間をかけて奈良の日本酒の歴史を語ってくれた。その一杯は、土地の祈りと時間を映す鏡であることを教えてくれる。

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昭和6年(1931年)創業の老舗・片上醤油は、今年4月、29歳の片上厚磁(こうじ)さんが4代目として帰郷。伝統は無事に受け継がれ、次の世代へとアップデートされる。

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きび砂糖、酒のグラス、蕎麦、醤油。手に取るたびに、それは御所の歴史を知る行為であり、文化を支える参加だ。小さな一品が、町の記憶や人の思いを映し出す。

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このウォークラリーは、町の人々の協力なくしては成り立たない。普段は日曜定休の店もこの日のために戸を開き、見知らぬ客を迎え入れてくれる。

ひとつひとつの力は微力でも、みんなが協力し合って、大きな空間、多くの時間を創る。そんな元気玉のようなイベントだ。

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最後に集めたポイントで抽選を行い、金券を受け取り、東川酒店で「百楽門」を選んだ。瓶の中で眠る酒は、今日一日歩いた道のりと、人々の笑顔を静かに閉じ込めていた。

秋の奈良 御所縦断ウォークラリー 2025〜歩くことで、町の声を聴く

御所は、面積の半分以上が森林に覆われる町。ここは、風と森と、光の郷である。

山の稜線を渡る風、田畑に落ちる光、森に満ちる緑の息吹。その自然が、町の営みを包み込み、祭りや食や言葉を育んでいる。

秋の奈良 御所縦断ウォークラリー 2025〜歩くことで、町の声を聴く

このウォークラリーは、町を歩き、店に立ち寄り、言葉を交わすことで、御所の歴史と文化、そして未来を、少しずつ醸していく。歩くことで、町の声を聴く。

秋の奈良 御所縦断ウォークラリー 2025〜歩くことで、町の声を聴く

ひとりの足跡が、町をゆっくりと育てていく。この静かな始まりが、やがて御所を越え、奈良全体を包み込む大きなうねりへと育っていく。この日、弟と歩いた足跡、足音の先に、その鼓動を感じた。

 

ウォークラリーで訪ねた場所