大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

一語一笑〜冬を待つ理由は一椀にあり、奈良が生んだ最強の塩鍋

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 桜井市

冬になると必ず行きたくなる、必ず食べたくなる塩ちゃんこがある。控えめに言って日本一。名づけて、ちゃんこ・オブ・日本。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 奈良県桜井市

店の名は「活魚・ちゃんこ 一語一笑」。読みは「いちごいちえ」。偶然を一期一会と重ね合わせる、名前だ。邪馬台国があった奈良県桜井市。山に囲まれ、海のない大和の国に不釣り合いな活魚料理店。長年、敬遠してしまっていた。もっと早く訪ねておけばと悔やむ。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 奈良県桜井市

店の所在地は桜井市桜井565-1。阿倍野文殊院や多武峰といった古刹のあいだにある。アクセスが良いとは言えない。桜井駅からも歩かなければならない。それでも店は繁盛し、口コミが広げた美味しさの評判は、桜井の町を今日も明日も駆けていく。

扉を開けると、生け簀が目に飛び込む。水槽の中で魚が泳ぎ回る。魚介類は北海道の函館、三重の相差、岡山の虫明、京都の舞鶴から産地直送。大和の地で海を味わえるのは、その仕入れの確かさゆえだ。

一語一笑/奈良 桜井

座席は50席。広いが、個室はない。仕切りがないからこそ、子どもを連れていても安心できる。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 奈良県桜井市,メニュー

メニューは海鮮に限らず、揚げ物やイタリアン、丼ものまで幅広い。おそらくメインの割烹板前以外に、専門の料理人がいるのだろう。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 奈良県桜井市,メニュー

大晦日と元日は休みだが、2日からは営業してくれる。新年早々、鍋を求めてやってくる客にはありがたい。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 - 桜井市

造り七種盛り合わせ 2,500円。大学生になるまで魚が食べられなかった自分と違い、甥や姪は3歳の頃から魚好き。七種の造りを並べると、身の艶が皿の上で光る。赤身の濃さ、白身の透き通り。口に含むと鮮度の張りが舌に触れ、甘みが広がる。子どもたちは迷いなくペロリと平らげた。

一語一笑/奈良 桜井

タコぶつ切り 900円。タコが苦手だった甥も姪も、この店のぶつ切りはおかわりをする。歯を立てると弾力がありながら、驚くほど柔らかい。鮮度の高さが食感を和らげる。噛みしめるごとに、ほのかな甘みが滲み出てくる。子どもの舌は正直だ。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 - 桜井市

サーモン紅トロ 1,200円。脂の乗ったサーモンは、この店の隠れた人気。切り口の朱色が皿の上で映え、口に運べば脂が舌に溶けていく。とろりとした旨味が広がり、子どもたちは必ずおかわりをする。

【一語一笑/奈良 桜井】

豪快な塩ちゃんこ鍋の前に、ふろふき大根が供される。見た目は素朴だが、煮含められた大根は芯まで透き通り、箸を入れるとほろりと崩れる。上にのせられた柚子味噌が香りを立て、舌の上で大根の甘みと融け合う。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 日本一の塩ちゃんこ

一語一笑の真骨頂は「引き算」にある。出汁は最低限。素材の味を信じ、余白を残す。玉子焼きに至っても、出汁は背中を押す程度。玉子の甘さを一歩前に出させる。それはスラムダンクの「左手は添えるだけ」に似ている。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 桜井市

マカロニグラタン 750円。子ども連れの客を喜ばせる料理も豊富だ。とろりとしたホワイトソースに、香ばしい焼き色をつけたグラタン。マカロニは柔らかすぎず、噛むと歯に心地よい弾力を残す。チーズの香りが食欲を引き出し、4歳の甥も7歳の姪も笑顔で平らげる。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 桜井市

イベリコ豚中落ち 850円。鍋を待つあいだに供される肉料理。香ばしく焼き上げられた中落ちの旨味が口に広がる。脂の甘みが舌に残り、鍋への期待をさらに高める。

一語一笑/奈良 桜井

元祖ちゃんこ 2,500円。真打の登場。名付けて「日本一の塩ちゃんこ」。一人前2,500円。いつも2人前を6人で分け合う。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 日本一の塩ちゃんこ

鍋に並ぶのは、お麩、豆腐、ニラ、豚バラ肉、鶏胸肉、しらたき、車海老、白菜。どれもありふれた素材。だが、ひと口すすれば目から鱗が落ちる。まるで467個は落ちるほどに。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 桜井市

具材の味は控えめ。出汁も仄か。だが塩がすべてを束ねる。淡白な鶏肉が塩で旨味を帯び、豚の脂は後味を甘く変える。白菜の水分が出汁に溶け、車海老が深みを加える。塩を信じ、塩を預け切った鍋。ここまで塩だけで旨さを立ち上がらせる板前は少ない。真似をしてもできない。塩を最大限に生かす技術がそこにある。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 桜井市

鍋が苦手な甥や姪でさえ、この塩ちゃんこの出汁は何杯もおかわりする。子どもの舌は誤魔化せない。一流の証がそこにある。

活魚・ちゃんこ 一語一笑 / 桜井市

締めの雑炊 400円。鍋の旨味を吸った米が卵とからみ、舌に滑らかに落ちていく。塩の余韻がやさしく口に広がり、身体の芯まで温める。完全なリレー。パーフェクト・ゲームと呼ぶにふさわしい鍋料理。この塩ちゃんこがあるからこそ、寒い冬の訪れを待ち侘びている。

日本一の塩ちゃんこ「一語一笑」

  • 住所:奈良県桜井市桜井565-1
  • 席数:50席
  • 営業:11:30 - 14:00、17:00 - 22:00
  • 定休:水曜日
  • 電話:0744-43-1518

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