大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

そうめん處「森正」〜時を食す庭、大神神社の参道にひそむ涼の楽園

f:id:balladlee:20250919121830j:image

古い町並み、格子戸の向こうからは、涼やかな気配が漂ってくる。「そうめん處 森正」。看板には「そうめん庭」とあり、古びた木の質感に時代の重みが刻まれている。この門は、近松門左衛門の『冥土の飛脚』にも登場する「三輪茶屋」の門である。「奈良麻のれん」は森正40年の歴史を伝えている。

f:id:balladlee:20250919121820j:image

場所は、日本最古の神社・大神(おおみわ)神社の二ノ鳥居に向かって左側にある。

f:id:balladlee:20250919121857j:image

三輪そうめんは、他のお店で提供される太麺の「誉(ほまれ)」ではなく、「緒環(おだまき)」を使っている。繊細さと扱いやすさのバランスがよく、煮麺(にゅうめん)にも向いている。「緒環(おだまき)」を提供する店は、かなり珍しい。

f:id:balladlee:20250919121930j:image

サイドメニューの柿の葉寿司は自家製で、セットで頼む人も多い。参拝の行き帰りに、夏はさっぱりと、冬は体を温めに立ち寄りたい。

f:id:balladlee:20250919121916j:image

門をくぐると、土間のような空間が広がり、木の梁と簾が風をやさしく揺らしている。

f:id:balladlee:20250919121932j:image

石畳が奥へと導き、庭の緑へと視線を誘う。

f:id:balladlee:20250919121936j:image

苔むした石灯籠や手入れの行き届いた植栽。

f:id:balladlee:20250919121927j:image

築100年の古い民家を改修した空間は、ただ食事をするためだけの場ではない。ここに腰を下ろすだけで、ゆったりとした時間が体に沁み込んでくる。

f:id:balladlee:20250919121911j:image

お手洗いは、庭先の民家にあるという風靡。初詣の時期には外まで行列ができる。

冷やしそうめん

f:id:balladlee:20250919121919j:image

夏の昼下がり、冷やしそうめんを頼んだ。大ぶりの器に盛られた白い糸のような麺。透き通る氷のかけらが涼を告げ、海老や椎茸の彩りがその清冽さを引き立てている。箸で持ち上げると、細くしなやかな麺が水をまとってきらめく。口に含むと、まず出汁のやさしさが広がり、のどを通り過ぎる瞬間、ひんやりとした感触が胸の奥を通り抜ける。繊細だが、決して弱くはない。地元・奈良の醤油とみりんが生む出汁の輪郭が、淡いそうめんに確かな骨格を与えている。

f:id:balladlee:20250919121913j:image

添えられた柿の葉寿司をひと口。しっとりとした葉をめくると、鯖の銀色がのぞく。酢の酸味と米の甘みが舌の上で溶け合い、そうめんの清らかさと呼応する。昔から旅人の腹を満たしてきた素朴な味わいが、ここでは庭の風とともに供されるのだ。

にゅうめん

そうめん處「森正」〜時を食す庭、大神神社の参道にひそむ涼の楽園

夏の記憶をそっと抱きしめながら、秋から冬へと移ろう季節に恋しくなるのが、この「にゅうめん」(1,000円)。湯気の向こうで、白い麺が静かに出汁と溶け合っていく。

ひと口すすれば、やさしい鰹と昆布の香りが舌の奥でほどけ、次第に素麺そのものの甘みがにじんでくる。食べ進めるほどに、出汁の深みと小麦の素朴な香ばしさが寄り添い、気づけば汁まで飲み干している。それは懐かしさではなく、“体が思い出す味”。一年中味わえるが、夏でも頼む人が絶えないというのも頷ける。

むかごご飯

そうめん處「森正」〜時を食す庭、大神神社の参道にひそむ涼の楽園

にゅうめんの隣に添えられる「むかごご飯」(650円)は、里山の恵みそのもの。山芋の葉の根元にできる小さな実“むかご”を炊き込み、ほのかな土の香りと、栗のようなやさしい甘みが口に広がる。ほろっと崩れるむかごの食感が、あたたかいご飯と重なり、噛むほどに秋が深まっていく。

釜揚げ太そうめん

そうめん處「森正」〜時を食す庭、大神神社の参道にひそむ涼の楽園

秋から冬の限定「釜揚げ」(1,100円)は、湯気までごちそうだ。太めの素麺を釜からあげ、熱々のまま醤油出汁につける。ふわりと立ちのぼる湯気が、鼻先にやさしく届く。

太そうめんを釜からあげ、おだしにつけていただきます。

添えられた胡麻は自分ですり、香りを立たせてから麺に添える。胡麻の香ばしさと出汁の塩気が重なった瞬間、冬の訪れが舌の上でゆっくりほどけていく。静かな午後、湯気の向こうに季節の気配が見える。

f:id:balladlee:20250919121855j:image

土産物が並ぶ棚には、干物や豆菓子、手作りのわらび餅まで揃っている。単なる食事処ではなく、暮らしの延長にある市場のような温もりがある。

大神神社の参拝を終え、この門をくぐると、時間の流れは緩やかになる。麺を啜り、寿司を味わい、庭を眺める。その一つ一つの所作が、日常に忘れかけていた余白を取り戻してくれる。森正は、そうめんを食べる場であると同時に、古都の空気を深く吸い込むための小さな避難所である。

  • 住所:奈良県桜井市三輪535
  • 営業:平日:10:00~17:00(冬期10:00~16:30)、日・祝日:9:00~17:00 
  • 休み:月・火曜、祝日または毎月1日の場合は営業(年末休、臨時休あり)
  • 電話:0744-43-7411
  • 交通:JR桜井線三輪駅から徒歩5分

桜井が誇る三輪そうめん

三輪そうめんのお店

三輪そうめんと合わせたい

日本最古の大神神社

大和のうまいもん