大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

「春鹿 純米超辛口」〜春日の神鹿がくれた辛口の極北、静寂の刃、余白の美

「春鹿 純米超辛口」〜春日の神鹿がくれた辛口の極北、静寂の刃、余白の美

  • 銘柄:春鹿
  • 土地:奈良県奈良市福智院町
  • 酒蔵:今西清兵衛商店
  • 区分:純米酒
  • 原料米:五百万石
  • 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
  • アルコール:15度
  • 精米歩合:60%
  • 価格:1,925円(720ml)

「春鹿 純米超辛口」は、奈良市ならまちで「春鹿」ブランドを醸す今西清兵衛商店を代表する一本。昭和60年(1985年)の発売以来、蔵の人気ナンバーワンであり、春鹿の全生産量の半分をこの「超辛口」が占めている。

奈良県内のコンビニにも売られており、奈良を代表する酒として国内外で知られ、世界中にファンを持つ。

日韓首導会談後の晩餐会にて、乾杯のお酒として振る舞われた「春鹿 純米吟醸 吟麗」と並ぶ、春鹿の顔である。

ラベルには「春鹿」よりも大きく「超辛口」が配されているが、これは“辛口酒のパイオニアとして確かな自信がある”という、蔵の誇りをそのままデザインにしたもの。威風堂々としていながらも、どこか艶めいている。黒は夜の静寂、金は雷光。その対比が、この酒の性格そのものを語っている。ラベル右上の「春鹿」の朱が、奈良の春日大社の灯籠の炎のように、古都の息づかいを添える。

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「超辛口」とは」、日本酒度という、甘口・辛口を表す指標がプラスに大きくなるほど辛口となり、一般的には +6以上で辛口、+8以上で“超辛口” と呼ばれることが多い。唐辛子のような「辛さ」ではなく、雑味のないすっきりとした飲み口、後味のキレの鋭さを示している。

「春鹿 純米超辛口」〜春日の神鹿がくれた辛口の極北、静寂の刃、余白の美

「春鹿 純米超辛口」の日本酒度は +12。まさに超辛口の王道と言える数値で、その味わいは研ぎ澄まされたドライさと透明感が特徴だ。

辛口の日本酒は、料理の邪魔をせず、むしろ旨味を引き立てるため、食中酒としても非常に人気が高い。奈良の蔵元が育てたこの一本は、辛口好きはもちろん、日本酒を飲み慣れていない人にも新しい魅力を伝えてくれる。

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「春鹿 純米超辛口」の酒の区分は「純米酒」。米、米こうじ、水だけを原料とし、醸造アルコールを加えないお酒。米本来の旨味やコク、そしてふくよかな香りを楽しめる。

 

味わい

「春鹿 純米超辛口」〜春日の神鹿がくれた辛口の極北、静寂の刃、余白の美

ひと口含むと、静寂が破れる。鋭いキレが舌を走り、瞬時にすべてを洗い流す。その刹那に感じるのは“冷たさ”ではなく、“凛”。冬の夜明け、春日山の山頂に射す一筋の光。その光が雪を融かし、空気の粒子までも澄ませていく。そんな感覚。

春鹿の辛口は“余白の美”。この酒は、雑味をすべて削ぎ落とし、味の輪郭だけを極限まで研ぎ澄ました芸術品。米の旨味は、後味の静寂の中に、ほんの一瞬だけ残る。音楽が終わったあとの余韻のように。

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冷やせば、ガラス細工のように透き通り、燗にすれば、夜風のように温かい。どの瞬間にも、形を変えて寄り添う。それは古都・奈良の四季そのもの。

「春鹿 純米超辛口」は、盃を傾けるたび、心が研がれていく。その透明な余韻の中で気づく。この酒が伝えているのは、「強さ」ではなく「美しい潔さ」だということを。

燗酒の味わい

春鹿 純米超辛口は、冷やしてこそキレが立つ酒である。だが、ぬる燗にすると、また別の美しさが現れる。

ぬる燗では、程よい甘みがふっと立ち上がる。冷酒では鋭く研がれていた辛口の刃が、少しだけ丸みを帯びる。米の旨みが舌の上でほどけ、まろやかさが増し、それでいて春鹿らしいキレは失われない。冬の夜明けに張り詰めていた空気が、朝日を受けて少しずつやわらいでいくようだ。これは美味しい。春鹿の超辛口を、ただ鋭いだけの酒だと思っていた人ほど、ぬる燗の表情に驚くはずである。

一方、上燗まで温度を上げると、少し風味が遠ざかる。輪郭は残るが、冷酒やぬる燗で感じられた繊細な余韻がやや薄くなる。燗にするなら、ぬる燗が最も美しい。辛口の芯と米の甘みが、最もよい距離で向き合う温度である。

日本酒ブレンドの味わい

「春鹿 純米超辛口」〜春日の神鹿がくれた辛口の極北、静寂の刃、余白の美

少し遊び心のある飲み方として、「春鹿 純米吟醸 吟麗」と「春鹿 純米超辛口」を均等にブレンドしてみる。春鹿の顔である純米超辛口に、吟麗の華やかさを重ねる。すると、酒は驚くほど軽やかになる。超辛口のキレはそのまま残りながら、吟麗のやわらかな甘みと香りがふわりと広がる。

最初の口当たりは軽い。しっかりとした甘みが現れ、春鹿らしい辛口の線がすっと全体を締める。切れ味のある刀に、絹の衣をまとわせたような味わいである。

鋭さに華やぎが加わり、酒全体が一段上の表情を見せる。大吟醸を思わせるような品とふくらみが生まれ、春鹿という酒の懐の深さを改めて感じさせてくれる。

相性の良い料理

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  • 奈良漬:辛口が漬物の酸味を引き締め、最高のつまみになる
  • 焼肉:脂を鋭く断ち切る。肉の旨みだけを残して次のひと口を美しく整える
  • 焼きそば:ソースの甘さを引き締め、味をリセットして飽きを寄せつけない
  • 天ぷら:油を霞のように消し、素材の香りと旨みだけを浮かび上がらせる
  • ソーセージ:塩気と肉汁に辛口の刃が入り、味が立体的になる
  • ほうれん草のバターソテー:互いを邪魔せず、素材本来の美しさを際立てる
  • 唐揚げ:後味の油分を完全に払う。余韻は驚くほど清らか
  • 寿司:魚の旨味を押し上げ、キレを保ったまま芳醇さを纏う。
  • 油揚げの煮物:つゆの甘み・旨みを壊さない、静かな相性の良さ
  • コロッケ:コロッケの甘さと肉の旨みを残しつつ、油を軽やかに消す
  • クリームシチュー:濃厚さの中に鋭い余白を与え、緩急が生まれる
  • お好み焼き:ソースの強さを抑えずに、舌だけを綺麗にリセットする

「春鹿 純米超辛口」と料理を合わせるとき、強いのに出しゃばらず、皿をもう一段上へ押し上げる。その働きは、光を当てれば反射し、影に置けば静かに寄り添う刃物のような美。

「春鹿 純米超辛口」〜春日の神鹿がくれた辛口の極北、静寂の刃、余白の美

試して欲しいのが、奈良が誇る今西本店の奈良漬。辛口の酒が奈良漬の酸味を美しく引き締める。口の中で、奈良漬の重さがすっとほどけ、酸は尖らず、甘みはだれず、酒粕の余韻だけが深く残る。奈良漬は、春鹿に出会った瞬間、酒肴としての格を一段上げる。これは、最高のつまみである。

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焼肉は、脂を断ち切る一筋の光春鹿を含むと、肉の脂が霧のように消え、旨みの核だけが残る。重さを取り去って、美味しさだけを残す。その役割が見事。

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焼きそばは、ソースの熱を鎮める気流。甘さの濃いソースを春鹿の辛口が軽やかに整える。重かった味が一度リセットされ、箸が自然とまた伸びる。

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天ぷらは、黄金の衣を透かす透明感衣の油がふっと消え、海老や野菜の香りだけが前へ出る。春鹿のキレが、揚げ物をより美しく見せる。

ソーセージは、塩気に走る辛口の刃。肉汁の濃さに辛口の直線が入り、味が立ち上がる。ただ合うだけではなく、互いを高め合う組み合わせ。

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唐揚げは、油の幕が落ち、旨みだけが残る。ひと口の後に酒を含めば、油分が消え、鶏の旨みだけが澄んで残る。春鹿の辛口が最も美しく働く瞬間のひとつ。

寿司は、海の旨みが酒に艶を与える。魚の旨みが触れた瞬間、春鹿は急に芳醇な表情を見せる。キレを保ちながら膨らむ、上質な海と山の出会い。

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クリームシチュは、濃厚さに走る一本の線。クリームの甘さに、辛口の直線が入る。濃さと鋭さの対比が、味わいに心地よいリズムを作る。

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お好み焼きは、強い味を壊さずに、舌を浄化。ソースの濃さはそのまま。ただ、口の中だけを春鹿がすっと洗い、再び美味しく食べられるよう整えてくれる。

 

原料米:五百万石

「春鹿 純米超辛口」

五百万石は、兵庫県の「山田錦」に次いで全国で2番目に多く生産されている酒造好適米(酒米)。新潟県で誕生した品種であり、現在も新潟県が主産地。

「春鹿 純米超辛口」〜春日の神鹿がくれた辛口の極北、静寂の刃、余白の美

すっきりとキレの良い淡麗辛口な味わいに仕上がる傾向があり、米粒が硬質で溶けにくいため、雑味の少ないクリアな酒質を造りやすい。

心白(米の中心部にある白い部分)の発現率が高く、蒸米にした際に適度な硬さがあるため、機械での麹造りに適している。

 

酒蔵:今西清兵衛商店

酒蔵:今西清兵衛商店

今西清兵衛商店は、奈良市・ならまちの一角。格子戸の残る町家が連なる通りに佇む酒蔵。明治17年(1884年)の創業以来、140年近くにわたって奈良の酒文化を支えてきた。今西家は古くから春日大社に仕えた神人(じにん)の家系と伝わり、御神酒の奉納にも関わってきた。酒造業としての正式な創業は明治だが、その背景には、奈良1300年の土地の信仰と、長い年月を通して紡がれてきた酒造りの精神が折り重なっている。

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蔵の代表銘柄は言わずと知れた「春鹿(はるしか)」。その名は、春日大社の神々が鹿に乗って奈良の地に降り立った「春日神鹿伝説」にちなむ。春鹿の味わいの根底にあるのは、奈良・春日山系の伏流水。やや硬水で、発酵を力強く促し、キレのある辛口の酒を生む。とりわけ「春鹿 純米超辛口」は、日本酒ファンなら一度は耳にする看板酒だ。

酒造りの姿勢は徹底している。これまでは、酒に少し玄米を混ぜていたところ、しっかりと精白した米を用いた酒造りの奈良伝統の「南都諸白(なんともろはく)」の技を継承している。「米を磨く・水を磨く・技を磨く・心を磨く」という蔵の理念のもと、丁寧な精米と、低温長期発酵などのきめ細かな手仕事を今も守り続けている。木桶仕込みなど、古い技法を現代に生かす試みも怠らない。

「春鹿 純米超辛口」〜春日の神鹿がくれた辛口の極北、静寂の刃、余白の美

今西清兵衛商店は、ならまちという観光地の立地を生かし、蔵見学や試飲コーナーを充実させ、国内外の旅行者が気軽に日本酒に触れられる空間を創り上げている。今や春鹿は世界十数カ国へと輸出され、奈良の酒が遠い国々の食卓でも親しまれるようになった。辛口のすっきりした飲み口、香りの華やかさ、米の旨味。春鹿の酒は決して一言では語れないが、その奥には奈良の山の水、ならまちの空気、そして今西家が守り続けてきた技が静かに息づいている。古都・奈良の伝統を守りながら、世界へと広がる日本酒文化。その中心に、今西清兵衛商店は確かな誇りをもって立っている。

 

日本酒におすすめのグラス