
天皇社(てんのうしゃ)は、日本最古の神社である大神神社の末社。3世紀頃、邪馬台国の後を継いで日本(大和)を統治した第十代の崇神(すじん)天皇をまつる。

場所は、大神神社の境内の南側の駐車場の手前、成願稲荷神社の近く。気付かずに通り過ぎる人も多いだろう。


背後には三輪山がそびえ、社殿は階段を上った先にある。

登った先には、垣と、祠が静かに佇んでいる。天皇を祀る社にしては、かなり簡素。
天皇社の祭神

祭神は社名の「天皇社」が表すように、第十代の崇神天皇。崇神天皇は、実在した可能性が高い天皇で、事実上の初代天皇ではないかと考えている。

この神社のすぐ近くに、ヤマト王権の発祥の地で日本で最初の宮都・磯城瑞籬宮(しきみずがきのみや)を築いた。ぜひ合わせて訪れてほしい。天皇社の例祭は6月13日。

11月14日には「崇神天皇奉讃祭(すじんてんのうほうさんさい)」が行われ、「磯城の舞(しきのまい)」の神楽が奉奏される。
崇神天皇の和歌

大神神社の境内にある「大美和の杜展望台」には、崇神天皇が詠んだとされる歌碑がある。
味酒(うまさけ) 三輪の殿(との)の
朝門(あさと)にも 押し開かね
三輪の殿門(とのと)を
美酒で名高い三輪の神の社よ。夜明けの門を押し開いて、帰るがよい。三輪の社の門を。
コラム:天皇社という小さな祠

その小さな社の存在を、知らなかった。実家から歩いて数分、大神神社への初詣に訪れるたび、天皇社の前を通っていた。けれど、目を留めたことがなかった。
大神神社には、石を投げれば摂社か末社に当たる。すべてを把握するのは不可能だと言い訳しようと思えばできる。だが、目の前の社が、崇神天皇を祀る場所であったと知ったとき、言葉を失った。

崇神天皇。第十代の天皇。邪馬台国の時代のあと、初めて日本という地を統治した人物。実在の可能性が高く「事実上の初代天皇」とも呼ばれる。その存在は、歴史書の頁を彩る遠い名前ではない。自分にとっては、桜井市の金屋という故郷の土地に、はじめてヤマト王権を開いた人物だった。ドラえもんでいえば『日本誕生』。その地が故郷であったことは誇らしい。胸の奥がじんと熱くなる。
いま、東京の皇居に住まう天皇には、もちろん直接の馴染みなどない。しかし、崇神天皇には何かしらの親しみがある。血の記憶か、土の記憶か、この地に生まれ育った者としての本能が、静かに共鳴している。

社は、小さな階段の上にあった。背後には、静かにそびえる三輪山。空気は凛と澄み、そこだけ時間の流れが違うような神域の気配に包まれていた。登り切ると、木の垣に囲まれた祠が、音もなくあった。誰の気配もない。ただ、風だけが、木の葉を揺らして通り抜けていく。その風の音に、しばらく耳を澄ませていた。
その静寂のなかで、11月14日のことを思った。崇神天皇を讃える祭、「崇神天皇奉讃祭」。神楽「磯城の舞」が奉奏されるという。先人への感謝と敬意を込めたその日には、ぜひ訪れてみたいと思った。
今まで知らなかったことを悔いながらも、こうして遅れてでも知れたことで、胸の奥に静かな安堵が広がった。

天皇社という、小さな祠。その前に立ったとき、「故郷」という言葉が、曖昧な記号ではなく、あたたかい輪郭をもって立ちあがってきた。
12年間暮らした新宿を離れ、ふたたび帰ってきた町。人生の折り返し地点は、もうとうに過ぎただろう。それでも、まだやり直せるような気がした。

天皇社という名の扉、もう一つの帰郷。
自分の歩幅で、新しい一歩で、もう一度、「故郷」を始めてみたい。
日本最古の宮都
天皇社の概要

- 歴史:不明
- 祭神:崇神天皇
- 例祭:11月14日
- アクセス:JR三輪駅から徒歩5〜10分
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