大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

「三輪駅 縁結び広場」〜駅前のまち、少しの縁と深い歴史の余白

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「JR三輪駅 縁結び広場」は、奈良県桜井市、JR三輪駅の「駅舎」や「駅前広場」を会場にした交流イベント。

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地元食材を使ったマルシェ、伝統芸能や音楽のステージイベント、ワークショップや展示など、地域情報の発信など行う。2024年10月6日からスタートし、2025年7月6日で6回目を迎えた。

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名前にある「縁結び」は、三輪山を御神体とする大神神社に象徴される“縁”の文化に由来し、人と人、人と地域、人と歴史を結びつけるという願いが込められている。地元のひとにとっては、外出のキッカケになる。

コラム:「三輪駅 縁結び広場」に寄せて

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駅という場所は、通過する場所である。そこに「居る」のではなく出発し、到着し、去っていくもの。地域の人にとって駅は、家族を迎えに行く場所であり、別れの背中を見送る場所でもある。

人生の中で、途中にしか存在しない、一時的な場所。しかし、JR三輪駅の前に広がる「縁結び広場」は、その定義を静かに裏切ってくれる。

地元の子どもが太鼓を打ち、よそから来た人がその音に立ち尽くす。これは駅なのか?と、ふと思う。

駅がただの通過点でなくなるとき、そこには風景ではなく「関係」が生まれる。列車が町をつなぐのではない。そこに立つ人々の視線、声、手の温度が、町と町、人と人をつないでいる。

かつて、奈良時代に桜井が海柘榴市(つばいち)で賑わっていたように、駅前の広場が令和に市(いち)となった。

地元の人々の暮らしとが、すれ違いではなく交わる場所になる。祭りが行われ、市が開かれ、笑い声が響くたびに、駅という場所がほんの少し「まち」になっていく。

かつて三輪は「美和」と書いた。美しい和。JR三輪駅の広場には、そんな匂いがする。

Vol.6:「三輪野菜」新鮮市場

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2025年7月6日。日曜。朝から日差しがじりじりと背中を刺す。姪っ子と甥っ子、それから弟と母の四人と一緒に「三輪駅 縁結び広場」へ向かった。弟は何度か訪れているが、僕は今回が初めてだった。

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駅前の空地にテントが立ち並び、人々が行き交う。今日はイベントはなく、「三輪野菜」の新鮮市場が開かれていた。派手さはない。しかし、土地の息づかいのようなものが、そこにはあった。

三輪駅 縁結び広場

「三輪野菜の七福神カレー」、じゃがバターをトッピングして800円。三輪野菜を主役にした本格スパイスカレー。じわじわと辛さが舌で踊る。シャキシャキの新鮮な野菜、ホクホクのじゃがバターの相性がいい。

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「三輪惠美酒」800円。ラベルの印象とは裏腹に、苦味が立っていて、男っぽい味のクラフトビール。

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姪っ子や甥っ子はカキ氷を昼食に。姪はイチゴ、甥はメロン。

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食事もそこそこに、「千本くじ(ひもくじ)」に夢中。1回100円のひもくじ。ふたりとも同じ駄菓子が当たった。

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水に沈んだミニトマトを掬う「ミニトマトすくい」に大喜び。青い桶に沈む赤や黄色のトマト。トマトが水に沈むのは糖度が高い証拠。

姪も甥も、器用にすくっては笑い、落としては悔しがる。すくったトマトはお土産に7つずつもらえる。1個ずつサービスしてくれ、合計16粒。姪も甥もトマトが大好物なので、晩ごはんに頂く。

イベントとしては課題もある。催しが少なく小規模であれば、その分、クオリティで魅了しなければいけない。近所のひとがフラッと立ち寄るのではなく、遠方から人を呼びたいなら尚更だ。それでも、地元の誇り(三輪野菜など)に触れながら、地元文化を楽しみながら吸収できる。

姪や甥が遊びに来たとき、「三輪駅 縁結び広場」が開催されていれば、次回も来たい。こうして、僕の魂が「あすかびと」になっていく。

Vol.7:黄昏三輪カフェ&バー

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2025年8月9日、土曜日の午後。7回目となる「三輪駅 縁結び広場」に足を運んだ。今回のテーマは、駅前をビアガーデンに変える「黄昏三輪カフェ&バー」

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開始は15時から20時。ターゲットを20代以上に絞り、会場には早くもゆったりとした熱気が漂っていた。白いパラソルの下、家族連れや友人同士がテーブルを囲み、グラスを傾けている。会話に混じる笑い声、遠くから聴こえる楽器の音色。駅前の小さな空間が、旅先の広場のように変わっていた。

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アルコールでは、桜井駅前にある「cafe bar JaM」が出店。バーテンダーが腕を振るう。

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ジン・トニック、モヒートも魅力的だったが、オレンジジュースとグレナデンシロップを重ねた「三輪サンセット」を選んだ。

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カップ越しに夕焼け色が揺れる。ひと口含めば、ハワイやグアムの南の島で潮風に吹かれている錯覚がやってくる。都会では当たり前の味も、この山間で味わう非日常は、特別な贅沢だ。あまりに心地よい味だったので、近いうちに店にも足を運んでみようと思った。杯を通してつながる縁も、またこのイベントの醍醐味なのだ。

母親は「日々一泡ブルワリー」のビールを手にした。JR西日本が運営する醸造所で生まれたもので奈良県に初上陸。舌に触れる泡は果実のように甘やかでフルーティー。ビールが苦手な僕でさえ、つい手を伸ばしてしまうほど飲みやすい。

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今回は、桜井の店だけでなく、大阪・豊中市のサンドイッチ専門店も加わった。「三輪野菜サンド」には、この土地で育った野菜の甘みと、大阪の職人技が重なっている。

桜井と大阪、異なる土地が手を組むことで、単なる地元イベントにとどまらない広がりが生まれる。外から来た人は新しい魅力を知り、地元の人は故郷の価値を再認識する。その交わりこそ、「三輪駅 縁結び広場」が持つ、いちばんの意義だろう。

三輪そうめんの「ふし」を炒め、バジルで香り付けした「そうめんチップス」も、地元の知恵と味覚を添える。

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月に一度、日常の風景に、非日常の味が加わる。やがては隔週、毎週の開催に変わっていくのか。それとも同じ歩幅で歩みを続けるのか。

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16時半頃には、8つのテーブル席は満席となり、立ったままグラスを手にする人も増えてきた。三輪駅前のスペースが限られるが、今後、もっとイベントが盛り上がれば、座席を増やす工夫も必要だ。

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訪れた人は皆、ジョルジュ・スーラの《グランド・ジャット島の日曜日の午後》のような、やわらかな昼下がりを過ごしていた。まだ平日の憂鬱が遠い休日の午後。そのわずかな時間に祝福が訪れる。郷愁でも明日でもなく、いまを生きる。世界で最もやさしい時間。

地元の食材や人の温かさが集まり、三輪駅前がひとつの“居場所”になる。大阪からも、他の町からも人が集まり、ここでしか生まれない縁と記憶が積み重なっていく。そんな未来を、この町に見たい。

Vol.8:カフェ&バー黄昏三輪 2nd

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月に一度、三輪駅の片隅に、ひとつの広場が生まれる。人と人を結び、土地と旅人を結び、時間と記憶を結ぶ。

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9月6日、夕暮れ。まだ残暑の匂いを残しながらも、風の中には秋の気配が忍び込んでいる。

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17時に駅前に足を踏み入れると、すでに二胡の音色が響いていた。

鄙(ひなび)と雅(みやび)。その二つが不思議に溶け合う桜井。町の輪郭が、音色によってくっきりと浮かび上がる。

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先月に続いて、桜井のBAR「JAM」がカウンターを構えていた。「三輪サンセット」に代わり、この日は「洋梨スカッシュ」を頼む。

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グラスを傾けると、洋梨の甘さがほんのりと広がり、そこに林檎が寄り添う。淡い炭酸が舌の上で弾けた瞬間、風鈴が鳴ったような透明な響きが胸に落ちる。今月中に、弟とBARを訪ねよう。

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定番の「三輪そうめんチップス」。口に入れると、軽やかな音とともに、素麺の新しい顔が現れる。何もつけなくても美味い。近年、三輪の今西酒造が日本酒の全国大会で日本一に輝いているが、「そうめんチップス」も、三輪の顔になれる。

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そして、この日初めて姿を見せた「三輪の福包み」

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油揚げに地元の野菜を忍ばせ、カリッと揚げた一品。ほのかなカレー風味が、夏の記憶を呼び戻してくれる。

味の記憶に導かれ、再びここに戻ってくる。そんなリピーターを呼び込む力が、この小さな広場にはある。

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食後には「三輪しろくま」のかき氷。蜜は控えめ、果物の色が氷の白に映える。それは甘さではなく、三輪の涼やかさを食べるという体験だ。

数年後は10月になってもカキ氷が美味しくなっているだろう。エンドレス・サマーは、すぐそこまで来ている。

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気づけば、日が傾き、木陰では二胡の音が深みを増していた。仕事帰りの人が、足を止めて耳を傾ける。アルコールを傾けるのもいい、軽くつまんで帰るのもいい。ただそこに居合わせること自体が、ひとつの贅沢だ。

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この広場は、月に一度しか開かれない。だからこそ、一度ごとにかけがえがない。

来月もまた、あの木陰に集う人々と、新しい季節の匂いに出会えるだろう。

Vol.9:ブックフェスタ・ジャパン

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三輪駅のホームに風が通り、縁結び広場の白いパラソルがわずかに揺れる。心配された雨は午後からで、朝10時20分の開始には、雲間から太陽も顔をのぞかせた。

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月に一度の三輪駅 縁結び広場。そのVol.9が2025年10月5日(日)に開催された。今回は一部の飲食のマルシェを残しながらも、メインはブックフェスタ。大型書店や通販では買えない本が集合する。

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そのイベントに彩りを添えるように、三輪出身の建築士・竹村優里佳さんのトークショーと、昔ながらの紙芝居が行われた。

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竹村さんは、三輪に生まれ、近畿大から立命館大学院へ、2022年に独立。いまは奈良とサンフランシスコを行き来しながら活躍している。

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南禅寺で全国の良石が集まる光景に出会って以来、石は彼女の建築の中心に住みついている。大阪・関西万博では、木津川で眠っていた「残念石」を主材に、デザイントイレ「Traces of Earth/地球の形跡」を担当。接着剤も釘も使わず成立させた。

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竹村さんは、三輪や奈良を「石というマテリアルがたくさんある場所」と話した。なんでもない石ころには永遠性がある。特に石舞台古墳は、奈良の象徴のような存在。石に着目して三輪を語るなんて、面白い。

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竹村さんの言葉を聞いて、かつて岡本太郎が著書『美の呪力』の中で、縄文人について語っていたことを思いだした。なんの意味もない、ただ石を積んだだけのものを高尚な芸術と讃えた。なんでもない表情であるがゆえに、そこには「無限」へとつながる力がある。形のない「空(くう)」の豊かさ、広がりが、静かに宿っている。

それは「奈良には何も無い」と揶揄されることに似ている。

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竹村さんに、石について質問すると、穏やかにこう答えた。「実用性がなく、言語化できないものにこそ豊かさがある。現在の社会では、まず、どんな使い方をするのか、なんのために使うのかと問われるけれど、三輪の町では、最初に有益性ではなく、石そのものの良さを語り合えるようになればステキだと思う」

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その言葉は、秋の風の中でゆっくりと広がっていった。三輪で生まれた建築家が、ふるさとの石について語っている。特別なことではない。けれど、こうした小さな集まりが、町の記憶を少しずつあたためていく。

11時からは紙芝居の時間。紙芝居屋のガンチャンは、昔ながらの街頭紙芝居の姿をそのままに、現代へとよみがえらせた語りの名手。日本各地のイベントをはじめ、アメリカ、メキシコ、台湾、ベトナムなど海外の舞台にも招かれ、紙芝居を通じて国や世代を越えた交流を続けている。

演じる紙芝居はすべてオリジナルで、その数は300作を超える。バカバカしくて思わず笑ってしまうが、最後にふと心に残る“ひとしずく”の余韻がある。子どもからお年寄りまで、誰もが笑って楽しめる世界をつくり出す。

SNSや動画配信が日常になった今、人と人が同じ場所・同じ時間を共有して物語を聴く行為は、特別な体験だ。ガンチャンの紙芝居は、子どもたちの反応を見ながら声色を変え、冗談を飛ばし、クイズを交わす。そこには一方通行ではない“呼吸の物語”がある。笑い声や拍手、驚きの声。そうした生きた反応が、物語を完成させる。

公園や商店街、縁日といった小さな場所で行われる紙芝居は、偶然居合わせた人同士をつなぐ。見知らぬ子どもと大人が同じ笑いに包まれる瞬間、地域はひとつの“舞台”になる。デジタルでは再現できない、人間的な温度がそこに生まれる。

クイズに答えて景品をもらう。単純なやりとりのようでいて、そこには学びの原点がある。知恵を出し合い、他者と関わりながら喜びを共有する。正解や点数ではなく、「楽しかった」という感情が中心にある。

ガンチャンの紙芝居は、古びた懐かしさではなく、今を生きる“周回遅れの最先端”だ。時間と空間を越え、人の表情を取り戻す文化の灯。その赤い自転車が止まる場所には、笑いと、人と人のつながりが生まれる。

Vol.10:三輪ことほぎ縁日

「三輪駅 縁結び広場」〜駅前のまち、少しの縁と深い歴史の余白

令和8年最初の「三輪駅 縁結び広場」は、2月7日(土)に開かれた。今年、鎮座1100周年という節目を迎える三輪恵比須神社。その「言祝ぎ(ことほぎ)」を静かな軸に据えた催しだった。

2月5日から3日間にわたって行われた「初えびす」。その最終日、「のこり福」の日にあわせて、この縁日は「福」と「ご縁」を結び直す場として用意されていた。

前日までの春めいた空気は、きれいに裏切られた。気温は8度下がり、三輪は真冬の顔を取り戻していた。今回は、始まりと同時の10時に足を運ぶ。少し早い昼ごはんを、この場で取ることにする。

振る舞われていたのは、「つくも鍋」。三輪そうめんの「ふし」(端の部分)と、酒粕を合わせた鍋だ。

湯気の向こうで、白と淡い褐色がゆっくり混ざっていく。身体の内側から、時間をかけて温まっていく感覚がある。

この鍋を用意してくれたのは、小料理屋「福づつみ」。4月に三輪でオープン予定だという。母親と行ってみようと思う。

今回、強く印象に残ったのは、珈琲を買うと付いてくる手相鑑定だった。考えてみれば、手相を見てもらうのは人生で初めてかもしれない。

最初に言われたのは、感情線のことだった。

「物事をオブラートに包まず、はっきり言う人ですね」

当たっている。

「嘘がなく誠実で、仕事では信頼されますが、恋愛には向いてないと思います」

めちゃくちゃ当たっている。

「今後も、恋愛の暇がないほど、仕事が忙しくなりそうです」

望むところだ、と思った。さらに、生命線をなぞりながら、こう続けられた。

「生命線がすごく強いですね。仕事の体力が相当あります。その分、無理がきいてしまう人です。自分を誤魔化してでも仕事ができてしまう。でも、腸には気をつけたほうがいいですよ。定期的に検査をしたほうがいいと思います」

腸のことは、東京で暮らしていた頃、師匠からも「注意したほうがいい」と言われていた。偶然にしては、妙に具体的だった。

「あなたは、奈良に戻ってきて運気が上がる人です。都会より、自然の力を吸収したほうがいい。部屋に籠るより、外に出たほうが仕事の力を発揮できるタイプですね」

物書きをしていることは、最後まで言わなかった。それでも、言葉は不思議なほど重なってくる。

「45歳頃から、家に閉じこもって仕事をするようになると思います」

ちょうど、今年から始めた深夜の仕事は、3年で一区切りにしようと考えていた。そのとき、ちょうど45歳だ。

それが現実になるのかどうかは分からない。ただ、その時間軸が、妙にしっくりと来た。どうなるかなんて、誰にも分からない。けれど、腸のことも、3年後のことも、不思議なほど当たっている気がした。

手相によって、言祝ぎをもらった。それで十分だ。あとは、自分次第である。

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