大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

西内酒造(奈良県桜井市)〜談山の麓で時を醸す酒蔵

 西内酒造(奈良県桜井市)〜談山の麓で時を醸す酒蔵 

桜井の町を抜け、談山神社の一の鳥居を過ぎると、古い木格子の建物が道沿いに現れる。1878年(明治10年)に創業した酒蔵「西内酒造」である。

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西内酒造は、紅葉の名所として知られる談山神社の一の鳥居そば、多武峰(とうのみね)の麓に創業した。

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この地は古くから酒造りに適した土地で、談山神社のあった場所には、かつて妙楽寺という大寺院が存在した。明治初期の神仏分離令で寺は失われたが、当時は僧坊酒が盛んに造られていた。その味わいは、奈良市郊外の正暦寺の僧坊酒と並び称された。

 西内酒造(奈良県桜井市)〜談山の麓で時を醸す酒蔵

西内酒造では、現在も妙楽寺跡から流れる川の伏流水を仕込み水として用いている。水は酒の成分の約8割を占め、品質を大きく左右する。談山の地は今も豊かな井戸水に恵まれ、これが西内酒造の命ともいえる。

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酒蔵自体は江戸の頃から存在していたが、本店は明治10年に建てられた。外観は古びて見えるが、松・桜・欅といった上質な材木をふんだんに用いており堅牢。製材技術がまだ発達していなかった当時、柱は真っすぐではなく、木のうねりや曲がりを生かして配置されている。その木の呼吸、曲がりの線は、時を超える装置のようである。

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蔵の内部は木造建築に土壁、屋根は煙出し構造。米を蒸す際の蒸気を外に逃がすための知恵である。階段は箱階段で、道具を収納する機能も備えている。

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蔵の一角には見張り部屋の跡が残る。重い木桶を引き上げるために使われた「阿弥陀車」も現存しており、かつての造りの息遣いを今に伝えている。八角形の車輪が阿弥陀像の光背に似ていることから、その名がついた。

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西内酒造の銘柄は「談山(たんざん)」。談山神社や等彌神社の御神酒も手がけており、神に捧げる酒としての誇りを胸に、心を込めて醸している。

看板商品は、極甘口の「貴醸酒」と、その貴醸酒をさらに仕込みに用いた「累醸酒」、そして、にごり酒である。このうち貴醸酒と累醸酒は、奈良県で唯一、西内酒造だけが造る特別な酒だ。

貴醸酒は、仕込み水の代わりに清酒を使用するという贅沢な製法。平安時代の書物にも登場し、濃醇でありながら柔らかい甘みを持つ。スサノオ神話にも縁を持ち、古代の“神に捧ぐ酒”を現代に蘇らせたような深みがある。

さらに、その貴醸酒で仕込む「累醸酒」は、西内酒造の登録商標。13年の歳月をかけ熟成された一本は、世界最大規模のワインコンテスト「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」で金賞を超える「トロフィー」を受賞した。この受賞が転機となり、今では国内外から注目を集めている。

2024年には「奈良古酒トロフィー」も受賞。蔵の貯蔵タンクには次の累醸酒が静かに眠り、5年の熟成を経ての出品を待っている。「古酒トロフィーを受賞したお酒を、数年後でも同じ味わいで楽しんでもらいたい」と杜氏の西内隆允さんが語る。

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店内には「食前酒」「食中酒」「デザート酒」というユニークなカテゴリーで商品が並ぶ。食前には軽やかな香りの酒を、食中には食材を引き立てるキレのある酒を、食後には甘く豊かな貴醸酒を。シーンごとに味わいを提案している。

 西内酒造(奈良県桜井市)〜談山の麓で時を醸す酒蔵

11月になると、にごり酒の「大名庄屋酒」が新酒の季節を告げる。

看板に「大名庄屋酒本舗」とあるように、西内酒造が誇る逸品である。西内酒造では、季節酒は、この冬酒(新酒)と、9月に出す秋酒(ひやおろし)のみ。

 西内酒造(奈良県桜井市)〜談山の麓で時を醸す酒蔵

西内酒造の本店では、おかみさんが漬けた手作りの「奈良漬」も顔を見せる。

 西内酒造(奈良県桜井市)〜談山の麓で時を醸す酒蔵

オリジナルの「談山」の利きお猪口や、酒粕も並ぶ。

一つの蔵で「食と共にある酒文化」を体系的に提示している点が、西内酒造ならではの魅力である。

 西内酒造(奈良県桜井市)〜談山の麓で時を醸す酒蔵

奈良は稲の改良においても歴史ある土地だ。明治の三大老農の一人・中村直三氏は、奈良出身で稲の品種改良に尽力した人物。

その流れを汲む奈良の米は、気候と土壌に合ったおいしさを持つ。西内酒造では、この地の良質な米と清冽な水で、土地の味をそのまま酒に写し取っている。

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現在は、五代目蔵元の西内康雄氏と、六代目杜氏の西内隆允氏が二人三脚で蔵を支えている。伝統を守りながら、新しい熟成技術や甘口酒の可能性を探る姿勢は、静かな情熱に満ちている。「貴醸酒、累醸酒といえば西内酒造」と呼ばれる存在を目指し、日々仕込みを重ねている。

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甘口酒は、日本酒に不慣れな人にも親しみやすく、乾杯酒としても映える。祝いの席やパーティで華を添える一本として、今後さらに多くの人に広がっていくだろう。

西内酒造の蔵には、時間の香りがある。古い柱が呼吸し、木の影が昼の光をやわらかく割る。酒は、過去と現在、そして未来を静かに醸している。

 

 西内酒造の基本情報

  • 会社名:西内酒造
  • 住所:〒633-0042 奈良県桜井市下3
  • 電話番号:0744-42-2284
  • 代表者:西内 康雄
  • 銘柄:「談山」
  • 創業:明治10年(1878年)

西内酒造の食前酒

西内酒造の食中酒

西内酒造の食後酒