大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

「三諸杉 木桶菩提酛」〜古代の醸し、三輪山の息吹を呑む

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  • 銘柄:三諸杉
  • 土地:奈良県桜井市三輪
  • 酒蔵:今西酒造
  • 区分:非公開
  • 原料米:非公開(奈良県産酒造好適米100%)
  • 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
  • アルコール:13度
  • 精米歩合:非公開
  • 価格:2,750円(720ml)

「三諸杉 木桶菩提」は、奈良県桜井市三輪にある今西酒造が、木桶と最古の清酒醸造手法である菩提酛で造る清酒。木桶由来の清々しい杉の香りと細やかな渋みが複雑に絡み、長い余韻を演出する。

「三諸杉 木桶菩提酛」〜現代に蘇った、神の起源の味

この漢字の「三諸杉」は、奈良県の特約店で販売する地元流通ブランド。ひらがなの「みむろ杉」が全国流通ブランドである。

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アルコールは13度で、精米歩合や米の名称などは非公開となっている。

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酒造好適米とは、日本酒造りに適した特性を持つよう品種改良されたお米のこと。麹菌が活動しやすく、雑味の原因となるタンパク質が少ない。今西酒造では、酒蔵の近くの自社田で山田錦を栽培している。

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ラベルのデザインは、無言の力を持っている。白く柔らかな和紙の上に、太筆で書かれた「三諸杉」の文字。墨の滲みが、霧の朝の三輪山を思わせる。その下に小さく押された朱の印が、静かな炎のように揺れる。装飾を削ぎ落とした極限の簡素。その簡素の中に、歴史の重みが潜んでいる。

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デザインも味わいも、イケメンの酒。「三諸杉 木桶菩提」は、飲む者を古代へと導く奈良の風、三輪山の湧水、そして千年前の仕込みの記憶である。

味わい

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盃に注ぐと、透明の液面がゆらりと光を返す。鼻を寄せれば、ほのかな木桶の香り。杉が放つ“青い香”ではなく、森の奥で眠る古木の静かな息吹のよう。

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ひと口。最初に感じるのは、張り詰めた切れ味。冷たく冴えた水鏡が、舌の上をひとすじに流れる。しかし、その刹那の後に訪れるのは、驚くほど柔らかな甘み。それは、刀の峰に宿る温もりのような、辛口の中の優しさ。

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やがて、渋みと酸味が複雑に絡み合い、その奥から木桶由来の余韻が静かに立ち上がる。杉と米と水。三つが渾然一体となり、ひとつの生命を宿したかのよう。

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時間が経つにつれ、味はまろやかに、円く変化していく。初日の“武士”のような張り詰めた緊張が、三日目には“僧侶”のような静けさへと変わる。辛口が祈りへと転ずる酒。

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冷やせば鋭く、温めれば深く。神と人との間を行き来するような一盃。三輪の地が育んだ“原点の神酒”が、今、現代の食卓に清らかに降り立つ。

相性の良い料理

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  • 味噌ラーメン:味噌の甘味を引き締め、塩味との調和で余韻が倍増する
  • 塩ちゃんこ鍋:塩味と出汁の旨みを高め、食後に透明な余韻を残す
  • 雑炊:米の甘味と日本酒のキレが共鳴し、上品なエレガンスを描く
  • 白菜の漬物:酸味と辛口が響き合い、清涼感が立ち上がる
  • 生ハム:塩味が酒のキレと交錯し、奥行きのある余韻を生む
  • トマト:酸を穏やかに包み込み、旨味の輪郭を際立たせる。

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味噌ラーメンの湯気が立ちのぼるとき、味噌の甘みがまず舌を包み、その奥から塩の輪郭が静かに姿を現す。甘みと塩味、そのわずかな緊張が味を引き締め、余韻を倍にして返してくる。スープをひと口すするごとに、味の層がほどけては重なり、気づけば箸を止める隙さえなくなる。

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塩ちゃんこ鍋は対照的に、主張よりも調和を選ぶ。塩の透明な響きが出汁の深みに溶け、具材それぞれの旨みを引き出していく。最後のひと椀を口に運ぶころ、舌の上に残るのは清らかな余韻。冬の朝の空気のように澄んでいる。

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鍋のあとには雑炊が待っている。米が出汁を吸い、酒のキレがその甘みを照らす。ほのかなアルコールの余熱が香りを立て、穏やかなエレガンスを描く。食の終わりに訪れるこの静けさは、宴の余白であり、幸福の余韻そのものだ。

箸休めに添えられた白菜の漬物は、一筆の清風のようだ。酸味が立ち上がり、辛口の日本酒と響き合うことで、口中に清涼感が走る。濃厚な味のあとに訪れるこの一瞬の透明さが、食の流れを整えてくれる。

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生ハムは、その逆。熟成の塩気が酒のキレと交錯し、余韻に深い陰影をもたらす。脂の甘みが消えたあとに、舌の奥に静かに残るのは時間の味。塩と酒が出会って生まれる、短くも濃い対話である。

そして最後に、トマトをひと切れ。酸が立ちすぎず、酒の旨味をやさしく包み込む。口に含めば、酸と甘が円を描くように寄り添い、旨味の輪郭がくっきりと浮かび上がる。料理と酒が互いを生かし合うその瞬間、味は単なる味ではなく、ひとつの物語になる。

酒蔵:今西酒造

今西酒造〜三諸杉の香り、三輪の祈りを醸す酒蔵

奈良県桜井市三輪にある今西酒造は、万治三年(1660年)創業の酒蔵で、現在は十四代目の今西将之が蔵を率いている。日本最古の神社・大神神社の門前に位置し、酒の祖神を祀る活日神社や杉玉発祥の地としての歴史を背負う。蔵の理念は「清く、正しい、酒造り」であり、三輪山の伏流水「神宿る水」と米を大切に使い、蔵元自ら田んぼに立つ。

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十四代目が継いだ当時、蔵は債務超過で荒れていたが、修行を重ね、米洗いの地道な作業を一万回以上繰り返し、酒質を高めていった。その結果、「三諸杉」「みむろ杉」は日本酒専門家や品評会で高く評価され、仙台日本酒サミットでは蔵部門・酒販店部門で4年連続1位を獲得している。山口智子、中田英寿、須藤元気などの著名人も酒蔵を訪ね、いまや全国的に注目を集める酒蔵であり、入手困難になりつつある。

日本酒サミットで1位に輝いた「ディオアビータ」

 

日本酒におすすめのグラス

 

 

 
 
 
 

今西酒造の「三諸杉」シリーズ

桜井のうまいもん