
奈良県桜井市箸中ののどかな田んぼの中に、木々に囲まれた静かな神社がある。それが「国津神社(くにつじんじゃ)」である。
入口には石の鳥居が立ち、まっすぐな石畳の道が拝殿へと続く。古びた灯籠が並び、木造の社殿の屋根は時を重ねたやわらかな色をしている。

境内には池があり、小さな祠が島のように建っている。水面に映る木々がゆらめき、花の鉢が並ぶ。訪れる人は少ないが、静けさの中に心が落ち着く。

国津神社は、古事記や日本書紀に出てくる有名な神話「天照大神(あまてらすおおみかみ)」と「スサノオ(すさのおのみこと)」の“誓い(うけい)”の物語を今に伝える神社だ。
神社のすぐそばを流れる纒向川(まきむくがわ)は、神話に出てくる「天の安河(あまのやすのかわ)」に見立てられている。川をはさんで、向かい側にはもう一つの国津神社(芝の九日〈くにち〉神社)がある。

二つの神社は、向かい合うように建っていて、男の神と女の神をそれぞれ祀っている。
箸中の国津神社に祀られているのは、天照大神がスサノオの持つ勾玉(まがたま)を噛んで生まれた五柱(いつはしら)の男神。
天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)、天穂日命(あめのほひのみこと)、天津彦根命(あまつひこねのみこと)、活津彦根命(いくつひこねのみこと)、熊野櫲樟日命(くまぬくすびのみこと)である。

一方、向かい側の芝の国津神社(九日神社)には、スサノオの剣から生まれた三人の女神「宗像三女神(むなかたさんじょしん)」が祀られている。この二つの神社は、天照大神とスサノオの誓いの物語を、そのまま風景の中に表しているのだ。

国津神社の境内には、小さな祠や石碑が点在している。拝殿の横にはスサノオを祀る祠があり、その奥には金毘羅神社(こんぴらじんじゃ)や稲荷社(いなりしゃ)もある。池のほとりには市杵島神社(いちきしまじんじゃ)が建ち、水面に映る姿が美しい。

さらにこの神社の裏手には「宮ノ前古墳」、近くには「ホケノ山古墳」がある。ホケノ山は、天照大神に仕えたとされる豊鍬入姫命(とよすきいりひめのみこと)の墓とも伝えられている。古墳の多いこの地域において、国津神社はまさに神と人の世界が交わる場所に建てられている。

毎年8月28日には、箸中と芝の二つの地区が一緒に檜原神社の祭りを行う。古くからの絆を今に伝える大切な行事だ。
境内の木々は高く茂り、風が吹くと葉がさやさやと音を立てる。鳥居の向こうに三輪山が見え、夕方には山の端が黄金色に染まる。遠い昔、神々が誓いを交わしたその時の空気が、今もこの地に流れているように感じられる。

国津神社。それは、古代の神話と静かな風景がひとつに溶け合う、やさしい祈りの社である。
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