大和ふるさと手帖〜奈良だより

故郷・大和(なら)のまほろばを紹介します。歴史、風土、寺院、遺跡、古墳。あすかびとを目指して。

八坂(八阪)神社と狛犬の記憶─坂道ダッシュの先にある桜井市金屋の氏神『てんのはん』

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八坂神社(やさかじんじゃ)は、奈良県桜井市金屋に鎮座する神社。三輪山山麓に南面して鎮座する。大神(おおみわ)神社の末社(本社に付属した神社)にあたり、古くから金屋の氏神として崇敬され、山林や農業の守護神、疫病や災難を除ける神として信仰されてきた。地元の人は「てんのはん」と親しみを込めて呼ぶ。

八坂(八阪)神社の御祭神

八坂神社、奈良県桜井市金屋

八坂(八阪)神社では、以下の神々が祀られている。

  • 素盞嗚尊(すさのおのみこと) – 末社祭神
  • 大山祇命(おおやまづみのみこと) – 大峯社の祭神
  • 磐長姫命(いわながひめのみこと) – 賃長社の祭神
  • 大物主命(おおものぬしのみこと) – 金比羅社の祭神

この神々のご加護から、自然・農業の守護や厄除け、延命長寿のご利益があると伝えられている。

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素盞嗚尊(スサノオ)は、山林・農業の守護神で、その屈強さから、疫病災難を除ける大神。

大山祇命(おおやまづみのみこと)はイザナミ・イザナキの子で、山を総括し、五穀豊穣の守護神。

磐長姫命(いわながひめのみこと)は大山祇命の子で、延命長寿の守護神。

金毘羅社

金毘羅社

境内の右側には 金比羅社を祀っている。祭神は大物主命(おおものぬしのみこと)で、農業・工業・商業などの産業の守護神。てんのはんでは、家内安全、縁結びの神として祀っている。例祭は10月9日。

八坂(八阪)神社の歴史

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建立は不明。昭和54年に発行された『桜井市史』にも起源は記述なし。京都の八阪神社と、どちらが古いかは不明だが、昔、父親に訊いたときは「金屋が先に決まってるやろ」と鼻息を荒くしていた。ちなみに京都の八坂神社は、656年か866年が有力。全国に八坂神社は2300社ほどある。

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八坂神社は、かつて「牛頭天王社(ごずてんのうしゃ)」と呼ばれ、牛頭天王を祀る神社だった。素戔嗚尊(スサノオ)の別名が往古牛頭天王(ごずてんのう)だからである。牛頭天王は古代インドの祇園精舎の神様で、仏教色が強い。

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明治初年の神仏分離令により、牛頭天王の信仰が排除され、社名を現在の「八坂(八阪)神社」へ改めた。

八坂神社、奈良県桜井市金屋

現在は「坂」ではなく、「阪」の字が使われる。神仏習合による改名の歴史は京都の祇園にある八坂神社と同じである。地元の人にとっては、どっちでもよく「てんのはん」の愛称で呼ぶ。おそらく漢字にすると「天山(てんのさん)」すなわち「天皇山」であり、これが訛って「てんのはん」と呼んでいると思われる。「はん」は京都弁で「おかあさん」 を「おかあはん」と呼ぶのと同じである。

八坂神社、奈良県桜井市金屋

八坂(八阪)神社、今も大神神社と間違えて訪れる人が後を絶たない。観光客の人たちに「大神神社はもっと先。ここから歩いて10分くらいですよ」と言うと「えーーー、そんなに歩くの〜」とため息が漏れる。

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八坂(八阪)神社は大神神社よりも高台から桜井を見守り続けている。新年を迎えた初詣は必ず八坂神社に来る。

八坂(八阪)神社と狛犬

八坂(八阪)神社と狛犬

八坂(八阪)神社には2匹の狛犬がいる。狛犬は、神社の入口や本殿(春日造)の前などに対で置かれ、神域に悪いもの(邪気や魔物)が入らないように守っている存在。魔除けであり、「神社のガードマン」の役割。この狛犬の憶い出は後ほど。

八坂(八阪)神社へのアクセス

八坂神社へ向かう道は、歴史と自然の静謐な空気に包まれた、異世界への入り口のような風情を漂わせている。

① 山辺の道から八坂神社へ

八坂神社、奈良県桜井市金屋

八坂神社へは、日本最古の古道「山辺の道」を歩き、金屋の集落へと進む。道沿いに 「八坂神社参道口」 の案内看板が立っているので、それに従って坂を登る。

② 住宅地を抜け、山道へ

八坂神社、奈良県桜井市金屋

参道は集落の中に続いており、坂道を登ると次第に家並みが途切れ、木々に囲まれた道へと変わる。ここからはなかなかの急登。トレーニングに最適な坂道で、極真空手の道場に通っていた頃は、ここをダッシュして鍛えていたことを思い出す。

③ 鳥居をくぐり、神域へ

八坂神社、奈良県桜井市金屋

目の前に 鳥居が現れる。ここからが本格的な神域。静寂の中、石段を一歩ずつ踏みしめながら登っていく。

八坂(八阪)神社と狛犬の記憶─坂道ダッシュの先にある桜井市金屋の氏神『てんのはん』

冬から春にかけては鳥居の手前で椿が迎えてくれる。

この鳥居は年末に地元の人が当番で、しめ縄をつける。神社における「注連縄(しめなわ)」は、神聖な領域と俗世とを隔てる結界。不浄なものの侵入を防ぎ、神様を迎える清浄な場所であることを示す。

新しい年を迎える支度とともに、胸の奥も静かに整っていく。

④ 竹林の奥、神秘的な空間へ

八坂神社、奈良県桜井市金屋

鳥居をくぐると、竹林に包まれ、木漏れ日が差し込む時が止まったかのような静謐な空間。

⑤ 八坂神社に到着

八坂神社、奈良県桜井市金屋

石段を登り切ると、赤い社殿が現れる。大神神社の末社らしく、シンプルで落ち着いた佇まい。周囲を囲む竹林と相まって「隠れ里の神社」といった趣がある。

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狛犬の記憶と八坂(八阪)神社

八坂神社、奈良県桜井市金屋

2025年2月、桜井に雪が積もった。雪化粧した村を歩くうちに、幼い頃の記憶がふと蘇る。父親に叱られるたびに、双子の弟と八坂神社へ連れてこられた。

狛犬に乗せられ、泣きながら父の顔を見た幼少期。今なら体罰にあたるのかは知らない。

やがて成長し、自分で降りられるようになっても、父は変わらず「ここで反省しろ」と言いながら、神社へと連れてきた。

八坂(八阪)神社と狛犬の記憶─坂道ダッシュの先にある桜井市金屋の氏神『てんのはん』

あのとき、狛犬はどんな気持ちで見つめていたのか。「またかよ。ええ加減にせえよ」と思っていただろう。

父の厳しさと優しさが懐かしい。家を出ると、凍てついた空気が肌を刺した。金屋の坂を登る。誰もいない。

八坂(八阪)神社と狛犬の記憶─坂道ダッシュの先にある桜井市金屋の氏神『てんのはん』

昔は八坂(八阪)神社までの坂をダッシュのトレーニングに使い、最後の石段を一気に駆け上がった。極真空手の全国大会を目指していた頃の自分が、今ここにいたら何と言うだろう。

八坂神社、奈良県桜井市金屋

雪の重みで枝がしなり、静寂の中で時折、雪が落ちる音が響く。赤い社殿が、白い世界にくっきりと浮かび上がる。「てんのはん」。家族はこの神社を親しみを込めてそう呼んでいた。今は父も祖父母も亡くなり、母だけが残った。けれど、「てんのはん」は変わらずそこにある。

八坂(八阪)神社と狛犬の記憶─坂道ダッシュの先にある桜井市金屋の氏神『てんのはん』

狛犬の前に立つ。子どもの頃に何度も見上げたその顔は、記憶よりも小さい。それでも、変わらない眼差しがそこにある。八坂神社は、今日も変わらず、ここにある。狛犬は今日も明日も、母や姪や甥っ子たちを見守ってくれている。

おまけ:事比良神社への道

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八阪神社の境内の脇を進むと登山道になっており、同じく金屋にある大神神社の末社・事比良神社に通じている。合わせて参拝してもらいたい。

狛犬の由来と役割

桜井の八阪神社

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