
大神神社の参道、二の鳥居の前に新たな酒蔵が誕生した。名は「三輪伝承蔵」。巳年である2025年4月に完成したこの蔵は、奈良・三輪という“日本酒発祥の地”にふさわしく、伝統と革新を結びつける象徴的な存在である。

参拝の途中に立ち寄れる開かれた空間でありながら、内部には吉野杉の木桶が据えられ、酒造りの鼓動が息づく。ここでしか出会えない限定酒や角打ち体験が、記憶に新しい旅の余韻を刻んでいく。日本酒の未来を醸す新蔵である。
三輪伝承蔵とは

「三輪伝承蔵」は、今西酒造が2025年に立ち上げた新しい酒蔵である。本店が重厚な歴史を体現し、駅前店が観光客を迎える拠点だとすれば、伝承蔵は未来を切り拓く舞台。「ここを日本酒好きが集まる聖地にしたい」という想いがある。
吉野杉が薫る「板倉造り」

参道から一歩、扉をくぐると世界が変わる。大神神社の参拝客で賑わう外とは対照的に、内部はひんやりとした静けさに包まれている。吉野杉の香りがすっと鼻を抜け、柔らかな光が吹き抜けの天井から降り注ぐ。

外観には吉野杉を用いて、弥生時代から伝わる日本の伝統工法「板倉造り」が採用された。参道の風景に溶け込みながらも、杉玉が掲げられた姿は新しい時代の門出を告げている。三輪は杉玉発祥の地である。
屋根は深い軒の出を保つために中世の禅宗様建築を象徴する「扇垂木(おうぎだるき)」と社寺建築でよく使用される桔木(はねぎ)工法を融合。
日本の伝統建築の美しさが際立つ格子状に組まれた梁が影を落とし、板倉造りの壁面は時を重ねるほどに艶を増す。

森の中に佇むような清々しさの中で、中央には小さな樽が並び、冷蔵庫の奥には酒瓶が静かに眠っている。

参道の喧噪から一転、木と酒と発酵の気配が織りなす空間は、旅人をやわらかな緊張感で包み込む。グッズを置いてある台は正倉院で有名な、校倉(あぜくら)造り。
グッズとお土産



店内では三輪そうめんや吉野葛など、奈良の名産も販売しているため、お土産にも最適。木の命を宿したオリジナルグッズも販売され、日常に持ち帰ることで、酒と森と土地の息吹を自宅でも感じることができる。「吉野杉プレート」「丸太鍋敷き」「伝承蔵紋ぐらす」の三種の神器は家で愛用している。

三輪伝承蔵は単なる酒蔵ではない。大神神社の参道に建つことで、神と酒、土地と人を結び直す役割を担っている。「清く正しい酒造り」という今西酒造の理念が、伝統的な木桶仕込みと現代的な空間設計に重なり合う。王道とは古きを守るだけではなく、時代に応じて磨き続けることだと、この蔵が語っている。
三輪伝承蔵でできる体験
木桶と発酵の見学

ガラス越しに吉野杉の木桶が並ぶ仕込み場を眺めることができる。吉野杉は1500年代に三輪山の杉が移植され育てられてきたもので、三輪と縁が深い。

吉野杉の木桶で発酵させることで、木由来のタンニンや棲みつく微生物の働きにより、複雑な風味と香りが加わり、より奥深く、余韻の長い味わいへと仕上がる。
伝統的な木桶仕込みが現代に復活した姿は、生き物の呼吸を覗き見るようだ。ここでは神前に供えられる御神酒の源が、静かに育まれている。
角打ち「御酒飲」:料理とペアリング

蔵の一角には立ち飲みカウンターがあり、参拝帰りに気軽に一杯を楽しめる。「角打ち」は、升(ます)の角から直接酒を飲んだことから名付けられた。
「伝承蔵セット」「三輪セット」は、ただ酒を味わうだけでなく、料理との相性を確かめる場。神社の参道で飲む。これぞ「御酒飲(ごしゅいん)」である。

飲み比べは、仕込みの違いや米の違いを舌で確かめる小さな旅。酒の個性を比較できる体験は、旅の記憶をより深くする。

しっかりとした味わいの酒には、ローストビーフの肉感がよく寄り添う。口の中で米の旨みと肉の濃厚さが重なり合い、酒が料理を引き立て、料理が酒を深める。甘い味噌だれをまとった蒲鉾は、日本酒の酸と甘みを受け止めて絶妙の調和を見せる。小皿一つひとつが酒と響き合い、舌の上に新しい発見をもたらす。

「おつまみセット」は極薄にスライスした奈良漬が絶妙。厚切りは苦手だが、小ぶりにすることで、こんなに美味しくなるのかと驚く。
味の組み合わせを探る時間そのものが、この蔵ならではの贅沢な楽しみ方である。
限定酒「三輪伝承蔵仕込み」

三輪伝承蔵で造られ販売する酒は、すべて「三輪伝承蔵仕込み」と名づけられた限定シリーズ。製法はすべて菩提酛(室町時代に奈良で生まれた最古の製造法)、吉野杉の木桶で造られ、米は奈良県産、酵母も三輪伝承蔵オリジナルの蔵付酵母を使用。

アルコール度数は13度とやや低めに設計され、軽やかで飲みやすい。それでいて「三輪を飲む」という哲学が息づき、土地の水と米の力を素直に伝えている。山田錦や露葉風など、原料米ごとの個性を飲み比べるのも楽しみ。今西酒造が目指す「甘くて酸味のある綺麗なお酒」をより具現化したお酒となっている。

奈良県限定流通ブランド「三諸杉」、全国流通ブランド「みむろ杉」、そして第3のブランドが「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み」であり、こちらも直営店限定の販売となっている。
これは代表の「三輪に来てほしい」という願いが反映されたものである。
三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 山田錦65

- 価格:2,200円(税込)
- 原材料名:米(国産)、米麹(国産米)
- 原料米:山田錦100%使用
- 精米歩合:65%
- アルコール分:13度
- 内容量:720ml
「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 山田錦65」は、酒米の王・山田錦が持つ力を存分に味わえる一献。力強い旨みとふくらみのある甘み、そして透明感のある後味が調和し、米本来の豊かさを引き出している。
三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 露葉風65

- 価格:2,200円(税込)
- 原料米:露葉風100%使用
- 精米歩合:65%
- アルコール分:13度
- 内容量:720ml
「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 露葉風65」は、奈良の酒米・露葉風の個性を映した純米酒。厚みのあるコクと清流のような切れを持ち、やわらかな甘みが余韻を整える。飲むたびに表情を変える“七変化”の一献。
三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 山田錦60

- 価格:2,750円(税込)
- 原料米:山田錦100%使用
- 精米歩合:60%
- アルコール分:13度
- 内容量:720ml
「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 山田錦60」は、無濾過生原酒ならではのピチピチとした若々しい躍動感が広がり、山田錦のやわらかな甘みと澄み渡る透明感が共鳴する。時間とともに甘みの輪郭が深まり、静謐と活力が共存する味わいに変化していく。ラベルの青は大和の夜明け前を象徴し、その白紋は新たな始まりの光を映す。清らかでいて芯のある、“始まりの一献”と呼ぶにふさわしい酒である。
三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 奈々露60

- 価格:2,750円(税込)
- 原料米:奈々露100%使用
- 精米歩合:60%
- アルコール分:13度
- 内容量:720ml
「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 奈々露60」は、奈良県産の酒米・奈々露を100%使用し、菩提酛と吉野杉の木桶仕込みで醸す特別純米酒。ふくよかさと、菩提酛由来のやわらかな酸が調和し、深く澄んだ余韻を描く。口当たりはとろりと滑らかで、木漏れ日のような甘みの後に、清水のごとき切れが訪れる。
時を経るごとに果実のような艶を帯び、静けさの中に円熟の息づかいを感じさせる。出汁の利いた和食から洋のオリーブ香る一皿まで包み込む、懐の深い一本。
三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 露葉風60

- 価格:2,750円(税込)
- 原料米:露葉風100%使用
- 精米歩合:60%
- アルコール分:13度
- 内容量:720ml
「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 露葉風60」は、奈良県産酒米「露葉風」を100%使用し、菩提酛造りと吉野杉の木桶仕込みで仕上げる。透明感のある辛口で、時間とともに甘みと深みが現れる凛とした味わい。朱のラベルに白の神獣が舞うボトルは、神話の炎を封じたような気品。うどん、味噌ラーメン、餅、焼き鮭など、和洋を問わず料理に寄り添う。
三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 露葉風50

- 価格:3,300円(税込)
- 原料米:露葉風100%使用
- 精米歩合:50%
- アルコール分:13度
- 内容量:720ml
「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 露葉風50」は、奈良県産の酒米「露葉風」を100%使用した特別純米酒。原酒ながらアルコール13度と軽やかで、無音のように澄んだ入口から、静かに波紋のような旨みが広がる透明感ある味わい。時間とともに甘みが開き、後半は青空のように清らかな余韻へと続く。チャーハン、トンカツ、塩ちゃんこ、雑炊、カチョエぺぺなど、和洋の料理を柔らかく受け止め寄り添う一本。
三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 山田錦35

- 価格:11,000円(税込)
- 原料米:山田錦100%使用
- 精米歩合:35%
- アルコール分:13度
- 内容量:720ml
三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 山田錦35は、奈良県産山田錦を100%使用し、精米歩合は35%。米の65%を削り落とす極限の精米には約3日を要し、その研磨の果てに、雑味を排した気品ある味わいが生まれる。
清涼感のある切れ味、複雑で奥行きのある旨味、芯の通った酸が調和し、酒というより“思想”に近い佇まいを見せる。口当たりは凛として澄み、次第に米の骨格が立ち上がり、長く揺るがぬ余韻を残す。
深い藍に金の神紋を配したボトルと、付属する吉野杉の特製プレートは、この酒が工芸であり、祈りであり、贈答品でもあることを静かに語る。まずは料理を置かず、グラス一つで向き合いたい。三輪の核を、そのまま飲むための一滴である。
三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 華ひかり

2026年からは、季節限定酒の製造も開始。第1弾として、春酒の「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 華ひかり」をリリースした。

三輪伝承蔵は、奈良・三輪という土地の物語を、現代の旅人に向けて開いた舞台である。木桶の前で一杯を口にすれば、清らかな水と米、そして三輪の時の流れが舌に染み込んでくる。参道を歩く途中にふと立ち寄るだけで、土地の歴史と未来を同時に味わえる。この新しい蔵は、三輪という聖地の記憶を次代へ手渡す「伝承」の場にほかならない。
三輪伝承蔵 周年記念イベント

2026年4月5日(日)、1周年を迎えた三輪伝承蔵で、周年記念イベントが行われた。
朝9時に始まったその日は、気づけばただの記念日ではなくなっていた。静かな三輪の町に、全国から日本酒を愛する人たちが集まり、列はふくらみ、やがて大神神社の二の鳥居まで続いた。ひとつの蔵の節目を祝うために、人がこれほどまっすぐ集まる。その光景だけで、この1年がどれほど濃かったかがわかる。

イベントは17時まで続いた。春の空気のなかで、人々は待ち、語り、盃を思い、蔵の前に流れる時間を共有していた。そこにあったのは、単なる人気ではない。この蔵でしか飲めないもの、この土地でしか立ち上がらない味を知っている者たちの期待だった。

12時20分からは鏡開きとふるまい酒が行われた。蔵元の今西将之、杜氏の澤田英治さんが、1周年という節目を祝う。

木槌が振り下ろされるその一瞬、場の空気は祝いの熱を帯び、酒の香りは目に見えない湯気のように人のあいだへ広がっていった。祝うというのは、こんなふうに音と気配とともに立ち上がるものなのかと思った。

このとき振る舞われたのが、「三諸杉 三輪伝承蔵仕込み 一周年当日限定酒 無濾過生原酒 おりがらみ」である。
それは、特別な名前にふさわしい一献だった。澄み切る寸前の霞を湛え、生原酒ならではの若い力を抱えながら、荒さではなく美しさとして着地していた。祝祭の酒でありながら、浮かれていない。むしろ、三輪という土地の水と米と人の仕事が、そのまま一点に結ばれたような味わいだった。三輪伝承蔵仕込み史上、最高の一献と呼びたくなるのも無理はない。
こういう酒に出会うと、限定で終わらせるのが惜しくなる。その日、その場にいた者だけの記憶にしておくには、あまりにも完成度が高い。できることなら、限定ではなく通年で販売してほしい。そう願わずにはいられない一本である。
三輪伝承蔵(今西酒造)の基本情報
- 所在地:奈良県桜井市大字三輪元馬場方552
- 電話:0744-42-6022
- 営業時間:10:00〜17:00
- 定休日:不定休
- 併設:角打ちカウンター、限定商品の販売
- アクセス:大神神社二の鳥居前、JR三輪駅から徒歩約10分
大神神社の参道店
駅前カフェ
三輪伝承蔵を訪れる旅の提案
三輪伝承蔵は単独で訪れるだけでなく、周辺観光と組み合わせることで旅の満足度が高まる。以下はおすすめのモデルプラン。
大神神社参拝と合わせて

三輪伝承蔵は大神神社の二の鳥居前にあるため、参拝の前後に立ち寄るのが自然な流れ。神前に祀られる酒と直結する蔵で一杯を味わえば、参拝体験がより深まる。
山辺の道散策とセットで楽しむ

三輪は古代の道「山辺の道」の起点でもある。古墳や古社をめぐるハイキングと、伝承蔵での角打ちや限定酒の購入を組み合わせると、歴史と酒を一度に味わえる。
奈良市内への日帰りの小旅行コース
JR奈良駅から三輪駅までは電車で約30分。日帰りでアクセスできる距離なので、奈良市内観光を延長に組み込むのも便利。朝に三輪伝承蔵と大神神社を訪ね、午後から奈良市内を観光するコースがおすすめだ。
桜井が誇る三輪そうめん
酒の神様を祀る「活日神社」
日本最古の神社「大神神社」
三輪守神・三輪山